わざと意識しないようにしていたのに…
「…っ2度も言わせないでよ。壱琉のバカ」
そういって柑奈は背を向ける。
辺りは真っ暗で
ある程度目は慣れたとはいえ
表情なんてみえないのに。
「……好きだよ。声だけじゃない。」
「え………?」
「でも,これ以上は言わない。
俺たちはたまたまここで出会っただけ
お互いの帰る場所は違いすぎるだろ」
「…でも…そんな…。」
明かりなんて無くてもわかる。
柑奈の瞳からは雫が溢れていた。
「……ほら、ひと夏の〜って言うだろ?
あれだと思ってさ。 …うん。」
言葉の通り、俺と柑奈が帰る場所には
比べ物にならないほどの違いがあった。
きっとこれ以上言ってしまったら
俺が柑奈の足を引っ張るような気がして…
「…バカ。
帰る場所が違うなんて当たり前じゃん!
それでも……それでも私…っ」
頭ではわかってる。
わかっているけれど…やっぱり無理だった。
「…だめだ。」
「………っそっか。」
「俺の負け。」
「…は…ぃ?」
「今ならお前を想う気持ち
どのファンにも負けないくらい強いから」
「…クスッ…なにそれ?ふふっ♪」
「ダメだった?」
「ううん、ぜーんぜんだよ!」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!