第5話
朝焼け
今朝は目覚ましで早く起きる。
家を出る前にばーちゃんに一声かけたところ
どーゆー風の吹き回しだと不思議に思われた。
あの海の朝焼けを残しておきたい。
とは思っているが,今日は紙と色鉛筆ではなく
スマホをしっかりと握りしめて家を出た。
慣れない絵なんて諦めて
写真で残そうと思っただけだ。
待ち合わせの海岸に着くと
そこには既に柑奈の姿があった。
「おっそーい!」
「ごめんごめん、思ったより早いのな」
「んー…まぁ、楽しみにしてたからね♪」
「ふーん、そ。それで感想は?」
「最っ高に綺麗!
空ってこんな色になるのね」
「だろ?」
うっすらと登り始めた朝日にカメラをかざす。
実際に見るよりも色は薄くなっているが
カメラにはグラデーションが写っていた。
「いい感じに撮れた?」
「んー…逆光にしてはまぁまぁかな?」
「おー、確かにまぁまぁだね。」
といいつつ、柑奈もカメラを構えた。
「ど?うまく撮れた?」
「あー、あー…うん!まぁまぁ!」
「見せて…って、真っ白じゃん!」
「あー、うるさいうるさい!
ほら!ぼんやり写ってるよ!」
「いやいや,真っ白だから!」
「私は芸術関係は美術より音楽なのよ!」
「え、それ関係ある?」
「あるの! ケホッ 」
「あー、はいはい。
んじゃ,適当にそれっぽい音楽でも流して」
「…人をSiriみたいに扱いやがって」
と不満を言いつつも彼女は
それっぽい音楽をかけてくれた。
真夏の真昼間みたいなパリピな音楽ではなく
静かな朝焼けにピッタリな音楽を聞きながら
2人で少し歩いた所の防波堤に座る。
ただぼーっと海を眺めるいると
ふと曲に引き込まれそうになった。
「これ……。」
「やっば!! ごめっ…この曲じゃなくて…」
といい、柑奈は音楽を慌てて止める
「待って、今の曲最後まで聞きたい。」
「……え?」
何に驚いたのか
ぽかんと口を開けて固まる
「…ダメだった?」
「え、あ…いや…いいんだけど…さ。」
再び流れてきた音楽は
透明感のあるボーカルの歌声と
ストレートな歌詞が心地よかった。
「これ、なんてグループの?」
「これは…
セイレーンっていうガールズバンドの」
「セイレーン…ね。」
「……っ気に入った?」
「ん、なんか…好きかも。
いい歌だし,ボーカルも素敵な声してる。」
「……そっか。……~~。」
といって視線を外した。
柑奈にしては珍しく
最後の方が小さな声だったため聞き取れなかった。
けれど目を合わせようとしない柑奈の耳は
朝焼けと同じくらいに赤くなっていた。