12月。もう2学期は終わりを迎え、今日はクリスマスの3日前。
聖夜の夜は当然、恋人同士で約束している。
だが皇成の心のなかには、暗いモヤモヤが棲みついて、離れなかった。
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一方、蓮と洸の関係は冷え切っていた。
洸は王子と呼ばれるだけあって告白も絶えず、遊び相手にも困らない。真面目なように見えて、高2にしてかなりの経験があるのだ。
2ヶ月までは我慢していたのだろうが、11月の終わりからついに、
「ヤらせてくれない」
と不満がたまり、女遊びが目立ちはじめたのが原因だ。
_クリスマス1週間前
呆気なく終わった。洸は、蓮にとって初めての恋人だった。ただ。
「ほんとうに好きだったか」
そう聞かれた時、自信をもって答えられないであろう自分が、すこし嫌だった。
洸と別れて、その場に1人残った。
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クリスマスイブ。今夜はクラスの皆でパーティーだ。
ザワザワ
選んだのは、片想い中の女の子を描いたラブソング。マイクを握り、歌い出す。沙彩に向けて。
……のはずだった。サビに近づくにつれて、頭の中がその人で占められていく。パフォーマンスのつもりだったのだが、そんな余裕もない。
優しくてやわらかいあの声で。
花が咲くようなその笑顔で。
満たされていく。
歌にねつがはいり、周りにクラスメイトがいることも忘れた。サビに入る頃には、40人いる中の誰もが黙って。ただただ黙って。皇成の歌に聴き入っていた。
_シーン
最後の旋律が消えても、余韻に浸るように、誰も口を開かなかった。
タッ
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部屋を出た蓮は、ふらふらとしていて今にも転びそうだ。そんな蓮に、不穏な影が近づく。
男が腕を掴む。蓮が振りほどけるような力では到底なかった。
抵抗したが何の効果もなく、無理矢理引っ張られていく。
ギュッと目を閉じて、呼んだ。
ドカッ
さっきまで部屋で響いていたのと同じ声に、そっと目をひらく。
ゴッ
男たちは走って逃げていった。
ガバッ
視界が白でいっぱいになる。
皇成に抱きしめられている。
抱きしめる力が強くなる
2人は一度離れ、人の通らない階段に座る。
また抱きしめられる。次は、優しく抱き寄せられるという感じだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。