第4話

帰り道②_ムカシのハナシ
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2019/07/17 17:27
_3歳の時に親が離婚して、それから小3まではこの町で暮らしてた。俺にはすごく仲が良い女の子がいて、毎日公園で遊んでた。家もすぐ隣で、いわゆる幼馴染ってやつ。その子と一緒だとホントに楽しくて、時間があっという間に過ぎた。だから母さんが仕事でいなくても、寂しいとか思ったことなかった。これからもずっと一緒だって、当たり前のように思ってたんだけど。俺が、山形にある母さんの実家に引っ越すことになった。その子は大泣きしてくれて、俺はまた絶対に会いにくるって約束した。

_並んでベンチに座っている。隣にいる蓮は、時々相づちをうつが、その声から表情は読めなかった。

_それから7年が経って、俺の母さんは2ヶ月ぐらい前に再婚した。それをキッカケに、また引っ越そうってなって。2人が俺にもリクエストを聞いてくれたんだ。で、俺はその子との約束を果たすために、この町に戻ってきたんだよ。
皇成
皇成
俺、その子のこと、れーちゃんって呼んでたの。
ひとつ、大きく深呼吸をする。
皇成
皇成
黒川さんは、この名前に聞き覚えがないですか?
一息で言って顔を上げる。


彼女の頰を、静かに涙が伝っていた。

皇成
皇成
黒川さん!?ごめんね、長々とこんな話して。ごめん。…泣かないでよぉ。ほんとにごめん!俺の勘違いだった!
彼女は小さく首を振っていた。しかし「勘違い」という言葉に反応したのか、急に顔を上げ、苦しそうな表情で皇成を見た。
蓮
…ちがくない。違くないよ!
皇成
皇成
えっ
蓮は皇成の袖をつかみ、しっかりと見つめて微笑んだ。
蓮
…こーくん
やっと聞けた。7年間ずっと求め続けたあの声が。いま皇成を、鼓膜を、震わせる。
探し続けたあの少しいたずらっぽい笑顔が、いま目の前にある。


ぼやけていた視界が、はっきりとした。遠くに聴こえていた音が、鮮明になった。
世界が、変わった。
皇成
皇成
…れーちゃん?
蓮
なあに、こーくん。
皇成の目に涙が溢れていく。
存在を確かめるように強く。強く抱きしめた。
皇成
皇成
ずっと、ずっと会いたかった。
蓮
うん。私もだよ。…約束、覚えててくれてありがとう。
皇成
皇成
当たり前じゃん!忘れたことなんてなかった。
そこにはもう、人気者で完璧ないつもの皇成はいなかった。
皇成
皇成
れーちゃん、れーちゃん……
蓮
よしよし、こーくんは相変わらず甘えん坊だね




そうして、どれくらい経っただろうか。
ふと皇成は我に返った。
皇成
皇成
はっ!ご、ごめんれーちゃん!こんな時間まで付き合わせちゃって。そ、それに抱きついたりとかしちゃって…ほんとごめん!
蓮
んーん。びっくりしたけど、大丈夫だよ。私も会えて嬉しかったし。クラスが一緒だから、これからも毎日会えるしね!
皇成
皇成
そーだね!ありがとう!
…じゃあ、そろそろ帰ろっか。家、変わったりしてない?
蓮
うん。してないよ
皇成
皇成
そっか、じゃあこんなに遅くなったの俺のせいだし、家まで送るよ。
2人はまた歩き出した。

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