_3歳の時に親が離婚して、それから小3まではこの町で暮らしてた。俺にはすごく仲が良い女の子がいて、毎日公園で遊んでた。家もすぐ隣で、いわゆる幼馴染ってやつ。その子と一緒だとホントに楽しくて、時間があっという間に過ぎた。だから母さんが仕事でいなくても、寂しいとか思ったことなかった。これからもずっと一緒だって、当たり前のように思ってたんだけど。俺が、山形にある母さんの実家に引っ越すことになった。その子は大泣きしてくれて、俺はまた絶対に会いにくるって約束した。
_並んでベンチに座っている。隣にいる蓮は、時々相づちをうつが、その声から表情は読めなかった。
_それから7年が経って、俺の母さんは2ヶ月ぐらい前に再婚した。それをキッカケに、また引っ越そうってなって。2人が俺にもリクエストを聞いてくれたんだ。で、俺はその子との約束を果たすために、この町に戻ってきたんだよ。
ひとつ、大きく深呼吸をする。
一息で言って顔を上げる。
彼女の頰を、静かに涙が伝っていた。
彼女は小さく首を振っていた。しかし「勘違い」という言葉に反応したのか、急に顔を上げ、苦しそうな表情で皇成を見た。
蓮は皇成の袖をつかみ、しっかりと見つめて微笑んだ。
やっと聞けた。7年間ずっと求め続けたあの声が。いま皇成を、鼓膜を、震わせる。
探し続けたあの少しいたずらっぽい笑顔が、いま目の前にある。
ぼやけていた視界が、はっきりとした。遠くに聴こえていた音が、鮮明になった。
世界が、変わった。
皇成の目に涙が溢れていく。
存在を確かめるように強く。強く抱きしめた。
そこにはもう、人気者で完璧ないつもの皇成はいなかった。
そうして、どれくらい経っただろうか。
ふと皇成は我に返った。
2人はまた歩き出した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。