キーンコーンカーンコーン
入学式も終わった放課後
蓮はうなずくだけだった。それを見た皇成は、少し寂しそうに歩き出した。
委員長の言う通り、外はもう真っ暗だ。昼間は暖かいとはいえ、所詮は4月ということか。
申し訳程度の街灯しかなく、通学路としては少々心許ない道を駅に向けて歩く。
なにから話そうか迷っているのか、極度に緊張しているのか、皇成は落ち着きがない。それとは対照的にただ下を見つめて歩く蓮。コツコツという乾いた音が、不思議に大きく響く。
そのまま電車に乗り込み、無言が続いた。
「まもなく、とさかー、とさかー
お出口は左側です」
アナウンスの音に、皇成はビクッと反応した。
そして焦り始めた。
改札を出て、少し先を歩く蓮に向かって、やっと口を開いた。
彼女はパッと振り返る
苦しい。水の中にいるみたいだ。そう思った。皇成がこんなに緊張するのは初めてだった。いや、ひょっとすると怖いのかもしれない。
もし自分の勘違いだったら。
忘れられていたら。
気持ち悪がられてしまったら。
人気者で、いつも周りに人がいる皇成にとって、こんな感覚は初めてなのは当たり前だった。こんなこと、考えたこともなかったのだから。
ホッとしたのか、強張っていた顔がほんの少し緩んだ。
だが、なんど深呼吸しても苦しいままだった。それでも覚悟を決めたのか、皇成はゆっくりと話し始めた。
それはまるで、あの頃を懐かしむような。思い出を噛みしめるような、穏やかであたたかい、優しい声だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。