次の日、天井をぼーっと眺めてた
昨日のちーくんの温もりがまだ残ってる気がして
…ん?なんか今日やけに静かだなぁ
そう思い一階の食堂に降りていくと私の分のおにぎりが机の上に用意されていた
「あら野村さんおはよう、遅かったね」
台所の方からそう声をかけてくれたのはこの食堂の調理人さん
みんなはあの人のこと『食堂のおばちゃん』なんて呼んでるけど怒るとめちゃめちゃ怖いんだからね?
いつもなら私以外にもたくさん遅く起きてきて朝食をとる人だっているのに今日は私だけ
「今日はどこも大会でもうみんな行っちゃったわよー?そうだ、野村さんも良かったら見に行きな、ここの子達結構強いのよ〜」
ご機嫌そうにそう言うと鼻歌を歌いながら奥の方に行っちゃった
そっか、じゃあもう試合とか始まっちゃってるのかな?
私も見に行こ、おにぎりを食べて支度をすると早速出かけた
今日は私服だから久しぶりにスカート履いてみた
んー、やっぱりたまには女の子するのもいいよね!
電車に乗って総合運動場へ向かった
大会って言うとたいていここが使用される
全国大会もここで行われるほど、まぁ設備が整ってるからね
到着したが人混みで全然前が見えない…そっか、うちらの学校だけじゃなくて他校も来てるんだもんね
んー、まずはどっから見に行こうかなぁ…なにしろこの人混みだからなぁ、あんまり動けないし近いところから行こっと
そして向かったのは、バスケットコート
もう試合は終盤に入ってるって感じかな?
あっ!あの黒に金色のラインが入ってるユニフォーム、星宮学園だ!!
対戦校は…瀬戸ノ内高校か、結構強いって聞いたことある気がする
得点は…んんー、見えない!
前に立ってることの人身長何センチあるのよ!
ービー!!!
「試合終了!!優勝、星宮学園!!」
おぉー!なんかよく分からないけど勝ったんだ!しかも優勝!!すごい…
この声、あの人だよね
バスケ部部長の如月玲生さんだっけ?
あの人ほんとに遊び人なんだ…噂だけは聞いたことあったけどね
よーし、バスケ終わっちゃったし次次!
いきなり腕を捕まれ変な声が出る
掴んできたのは…如月さん!?
なんなのこの人、他の人口説いてたんじゃなかったの!?
もしかしてもうフラれたとか?早い…早すぎるよ!!
げっ、顔を見られた…!
こういう時は…逃げる!!
人混みをかき分けなんとか逃げ切った
たいてい「あれ君…」って言う時はバレた時のお約束のセリフだから!
小説で何回も見たよ!?このシチュエーション
…あ、ちょうど走って着いた先には道場があった
まだ終わってないよね?…行こ
入っていくと廊下が2つに別れていてひとつは『弓道』、もうひとつは『剣道』
どっちから先に行こうかな…
「おい!もうすぐ決勝始まるぞ、急げ!!」
え、弓道もう決勝なんだ
じゃあ先にそっち行こうかな…
左側の廊下を一人歩いていった
新鮮な空気が肺に入ってきた
どうやら会場に到着したみたい
やっぱりここも人がすごくてちゃんと見えない…どっかいい場所ないかな?
えぇー!!なんでこの人まで!?
よりによってこんなタイミングで…最悪だ
でも「ありがとうございま」まで言っちゃったし、今更いいですなんてそう都合よくはいかないよね…しょうがない、今だけ!
腹に背は変えられない
今ここで変に誤魔化してもきっとこの人には通用しない、ならちょっとした失礼と引き換えに最善の安全をとった方がいいはず
軽く頭を下げ人混みの中に消えていった
…はぁ、緊張したー!!
あの人ほんとに三年生?あの圧力、とてもじゃないけどただの高校生には思えないってば
…多分ただの高校生じゃないからああなのかもしれないんだけどね
さて、じゃあ私は剣道の方へ行こうっかな
ードッ
つまづいて転びそうになった私を支えてくれたのは声でわかる通り竹折さんだった
弓道の弓を肩にかけ、もう片方の腕で私を抱き抱えてくれてた
剣道の方へ走ってく後ろ姿、んーどこかやっぱり似てる気がする
あの雰囲気と言い、なんといっても俺を見た時の目がな
ープルルルル…ピッ
ープツッ
相変わらずしけた野郎だな、あいつは
俺が負けるだなんてありえない、こんな断定的にことを言うのほど俺はまだ強くない
だがこんなとこで止まってる気もない、よし帰って稽古だ
俺は道具を持って出入口へ向かった
剣道、これから決勝か
類は…当然いるよな、あいつが負けたところを俺は見たことがない
あいつが一年で入ってきてから無敗だ
最強の王者、か…俺だってそのひとりだ、負けてたまるか
「これより、星宮学園 風間類 対片山工業 山崎周馬 の試合を始めます」
良かった、間に合った!!
右側が類…頑張れ
「では、初め!」
ーパァンッ!!!
ムチが強く打ち付けられたかのような甲高い音
「胴あり、一本!!!」
え、早!!
なに今の、類がこの一瞬で一本?
うっそ…全然違うじゃん、昔と
ただ淡々と勝ちを取りにいった、そんな感じだった
そんな瞬殺の試合にさすがに会場内でもどよめきが起こる
当の本人、類は嬉しそうでもなんでもない、普通にしている
…なんか、悲しいな
でも勝ったんだもんね類は、なら今はいいや
その後の表彰式も見て外に出た
次の電車は…17:18か、まだ1時間もある
どうして田舎の電車って一時間に一本なわけ?
不便極まりないんだけどーって、言っててもしょうがないもんね
女を泣かせちゃいけない、類の口癖だ
なんかちょっとだけ懐かしい感じがした
少し言葉を交わしながら歩いていき到着したのは…ケーキ屋さん?
オシャレな雰囲気に戸惑ってた私だけど手を引いて店内に連れていってくれた
「いらっしゃいませー、そちらのお席どうぞ」
店員に案内されたのは色とりどりの花で囲まれた…カップルシート!?
ななななな、なんで…?
あ…しまった、つい本音が
あわてて口を手で覆って顔を背けたけど類はクスッと笑ってる
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。