それだけを言うと、松川のお父さんは去っていった。
手紙……?
俺は封筒をあけ、手紙を開いた。
赤坂くんへ
あなたがこれを読んでいる…ということは、もう私はあなたのそばにはいないんでしょうね。
もうあなたは気づいているかもしれないけど、私はあの子です。
あなたに女の子の気持ちを何故か教えていたお母さん、その娘。
それから、東京に引っ越して10年程。
私は高校であなたに会った。私はすぐに分かったよ。
あぁ、家出したんだなって。
あなたのお母さんやお父さんのこともなんとなくだけど、分かっていたから、すぐに納得できた。
あなたはきっと『愛』を知らない。私が残りの人生、何かをやり遂げたいって思った時、生きがいを探していた時、あなたに『愛』を教えよう、そう思ったの。
だから、私は一クラスメイトとして、あなたに近づいた。嘘ついててごめんね。
でも、気がついたら好きになっちゃいそうで
病気の私が人を好きになったら相手を悲しませるだけ…そんな顔を天国から見るのは嫌だった。だから、付き合うことはしなかったし、付き合うとしても好きじゃない人に……ってね。
でも、あなたのことは本当に好きでした。
あなたに教えるはずだった『愛』
私はあなたに教えてもらいました。
あなたが「松川」と呼ぶ度に、私は幸せだなと感じました。
この先、あなたの人生は長い。
好きなように生きてください。
でも、ただ一つ。お願いがある。
どうか、私のことは忘れないでください。
今まで本当にありがとう。
あなたは私の生きる希望でした。
松川佑奈
なんだよ、これ……
手紙を読み終わった俺の顔は悲惨な程に涙でぐちゃぐちゃだった。
松川は、最後までとんでもないやつだ。
とんでもなく、俺を狂わせる。
今まで俺が知らなかったもの
全てこの短期間で教えてもらえた。
俺は幸せ者だ。
松川……ありがとう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!