第10話

『夢を、見ていた』~1~
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2023/03/31 22:00
夢を、見ていた。
私は普通の高校生……いや、不幸体質は健在だったから、「普通の」ではなく、「ひと昔前の」というのが正解だろうか
––––––で、毎日死にそうなほどの不幸に巻き込まれつつも、いつものメンツに絡まれて…。

どう考えてもそっちの方がいい。
なんて言ったって、こんな毎日よりは、普通の学生の方が何百倍も安全なはずなんだから––––––。

軽いベルの音で目を覚ます。


______朝だ。
どうも、黒幕あやめです。

まだ朝の5時くらいだろうか。
寒いし、布団にもう一度潜り込みたいけど、どうも寝起きがいいこの体質のせいで私の目はもうギンギラに冴えていた。
黒幕 あやめ
黒幕 あやめ
……はぁ
…まだ眠いのに。
そう小さく吐いて、私は隣の布団でぐっすり眠っている少女をぎろり、と睨みつけた。
そもそもが昨日、この人がオセロに付き合わせたせいで眠いのだ。

消えてしまえ!!この激重女!!!!


ため息を吐いて、いつも通り扉の前に立つ。
____このドアを開けてどうなってもいい。
どうなろうとどうせ、いつも通りのことだ。

深呼吸をし、覚悟を決めてガチャ、と扉を開ける。
八代 玄依
八代 玄依
あ、黒幕先輩…おはようございます!
二 夏宮夜
二 夏宮夜
んぉ? ほはよぉあやめふぁんん? おはよう、あやめちゃん
黒幕 あやめ
黒幕 あやめ
…どうも
こぢんまりとした食堂でご飯を頬張る八代さんと二先輩。
今日はいつもより相当マシだったことに感謝し、ぼそりと挨拶を返し、テーブルをチラリと見やる。
いつも通り虹河先輩は爆睡、きっと皆瀬先輩が朝ご飯をよそいに行っているのだろう。
後は天光くんと凱龍院くん(厨二病)、ハアトさん…そしてあの女、クスリさんか。

まるでハムスターのようにご飯をもっもっと詰め込み頬張っていた八代さんはごくり、とそれを飲み込み、柔らかく、可愛らしい声で「ごちそうさまでした」と呟く。
二 夏宮夜
二 夏宮夜
お粗末さーん!
八代 玄依
八代 玄依
おそまつさんって…
苦笑しながらも食器を重ね、シンクまで持っていこうとする八代さん。
はぁ〜〜〜、君だけは汚れないでね。このクソみたいな場所で君だけが癒しなんだ。

私はその後ろについて行き、おはよう、と声をかけてきた皆瀬先輩に重低音で「おはようございます」と返した後お米をよそい、
それから卵でも割ろうかと冷蔵庫を覗き込むと、案の定切らしてる。
何なら、空になった卵パックが放置されてる。
一瞬だけ「あっ、卵あるぅ〜!」と期待させた上で実は無いという最悪なシチュエーションである。
想定してはいたが、ちょっと凹む。

クソッ、久しぶりに卵かけご飯でも食べようと思ったのに…! 
…とはいえ、空の卵パックと睨めっこしたら卵が誰かのお腹から帰ってくるなんてミラクルは起きないため、
私はそれを引っ掴んでゴミ箱へぶん投げる。
八代さんがあ、と呟いて振り向く。
八代 玄依
八代 玄依
二先輩の作った生姜焼きとかありますよ
二 夏宮夜
二 夏宮夜
美味しいからお食べ!
お前いつここに来た。
ぐー、とウィンクをして親指を立てる二先輩から目を逸らす。
確かにこの人のご飯はめっちゃ美味しいけど何だか食べるのは癪に触る。
黒幕 あやめ
黒幕 あやめ
あぁ…ちょっと遠慮し…………
八代 玄依
八代 玄依
そういえば今日、爆破予告あった日でしたよね
可愛らしい顔で、なかなか字面のすごい言葉を口にする八代さん。
–––そういえばそうだった。
本日14時より、軍本部で爆弾を起動するとかいうアホくさい文言をつらつらつらつら並べていたあの手紙。
そうだ、しかもそれで私たちも現場へ向かうんだ………恐らく爆発に巻き込まれるのは想定内。絶対ある。
しかし、この恐気は絶対他にも何かある。
もしかすると、体力を要する「ナニカ」かもしれない。
その時の私は、一時の感情でお腹を満たさなかった私はなんて言うだろう–––ここまで約0.5秒。
黒幕 あやめ
黒幕 あやめ
食べますね
二 夏宮夜
二 夏宮夜
ふっふっふー、私の料理の腕、我ながら恐るべし…!!
二センパイの顔を張り倒してやろうかと思ったけどやめておく。
一応この人の作るご飯はとても美味しいし、仮にも先輩なのだから。
それに無駄に喧嘩を売るのは褒められたことではない。だからこうして心の中で中指を立てるのみで抑える。
生姜焼きをあっためながら私は牛乳を飲んでいる八代さんに声をかける。
黒幕 あやめ
黒幕 あやめ
厨………凱龍院君と天光ってもう起きてる?
八代 玄依
八代 玄依
ん〜、凱龍院先輩はさっき見たけど天光先輩は分かんないです。昨日も遅くまでゲームしてたみたいですし
黒幕 あやめ
黒幕 あやめ
ふむ…
もし私たちに任せてサボろうという魂胆なら許さねぇぞ、と念を送っている最中。
八代さんが牛乳パックを落としそうになったので高速でキャッチする。
あぁ良かった。
液体とは思いの外飛び散るもの、そして思いの外量が多いもので、コップ一杯の水がキッチンをびしょびしょにするなんてこともザラにある。
しかもこれは牛乳。
普通に飲んでいる時はあまり感じないが案外臭いのだ、これが。
八代 玄依
八代 玄依
あ、すみません…先輩
黒幕 あやめ
黒幕 あやめ
いや…気にしないで
何か大変なことをしたというわけでもないのに縮こまって謝る彼女は本当にいい子である。(二回目)
こんな部活で一番綺麗な心を持っている彼女から癒しを摂取した上で私はテーブルにつく。
メニューは白米と生姜焼きと味噌汁。
古き良き日本食といったメニューである。
大変平和そうだが、私の表情はどう見ても平和ではないものであろう。
––––––これから今日はどんなことが起こるのだろう。
勘弁だ、こんな嫌な予感がするくらいなら布団の中に引きこもってしまいたい。

けれど、私が生きていくためには任務をこなすしかない。
覚悟と諦念の混ざったため息をつく。
黒幕 あやめ
黒幕 あやめ
いただきます!
二 夏宮夜
二 夏宮夜
召し上がれ〜〜!
–––そんな状況でも、ご飯は今日も美味いのである。

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