おいしいご飯をかっこんでいるとぬるっと扉を開けてぬるっと天光が現れた。
彼の目の下には濃い隈、そして眠そうな眼付きの悪い目(もちろん私よりはましだ。そもそも男ってだけで目つきが悪くても多少容認されるのがうらやましくて仕方がない。女性もみんな目つきが悪くあれ)。そして寝ぐせのある髪の毛。梳かせ。私でさえ朝は梳かすぞ。
どうせまた夜遅くまでゲームでもしてたんだろう。
同じ考えをしていていたのだろう、先輩方が苦笑を浮かべる。
同じく苦笑を浮かべていた八代さんがちょこちょこ、とキッチンまで早足で歩いていく。
走らない所が彼女らしい。
味の染みた生姜焼きを噛み切りながら、うつらうつらとしながらゆっくりキッチンへ向かおうとする天光を眺めていると、予想通りご飯をお盆に載せて八代さんがキッチンから出てきて笑顔を浮かべる。
うーん、いい子。
周りからも感嘆の声が漏れる。
対して、ガサガサな消音ボイスでの天光の感謝の言葉。
オイ可愛い後輩が用意してくれたんだからもうちょいきちんとお礼を言おうぜ~?
まぁわざわざそんなこと言わないけど。
それはそうと、てきぱきとお盆をテーブルに運んで、通路でうつらうつらしている天光の背を押して、椅子を引いて座らせる八代さん。
一家に一台欲しいね! ハアトさんよりは八代さんがほしい。
と、「あ!」と小さな声と共に手をパチンと叩いて再びキッチンに舞い戻っていく八代さん。
今度は小走りに近いけれどそれでも走らない。彼女らしい。
(ご飯を食べている間することもないので)一体彼女は何をしに行ったのか。あまりにも動かない先輩にしびれを切らして背中を突く包丁でも取りに行ったのか。などと考えていると、等の本人が恥ずかしげな笑顔を浮かべて戻ってきた。
その手には、卵と醤油、そして小さな器。
あれ、さっき私が食べようとした時は それなかったはずなんだけど。
いったいどこから湧いて出たんだいHey egg。
過ぎたことは仕方がない。少しの口惜しさを飲み込んで、代わりに味噌汁をずずいと飲む。
美味しい。
美味しいご飯というものはいいものだ。
先ほどの声をまんま再生したかのような全く同じ台詞に辟易した様子もなく、八代さんはニコニコ笑顔でそこにたたずんでいる。
と、そこに皆瀬先輩があれ?と首をかしげる。
成程そういうことか。
でもそれなら私に譲ってもよかったんだよ。なんて思いながら残り少ない白米をポイ、と口に放り込む。
と、未だ眠たそうな天光の代わりに八代さんが卵を割って醤油と混ぜ、ご飯にかける。
うーん、おかんだ。
一応この支部に配置された中では一番の年下のはずなのに。
と、へらへらと笑いながらの皆瀬先輩。
女の子に介護されていることに対してか、それとも優しい後輩をもったことに対してか。
おそらく後者なのだろう、と思っていると皆瀬先輩が「虹河ちゃん、あーん」と虹河先輩に声をかける。
眠っている虹河先輩にいつものごとく ご飯を与えている皆瀬先輩もおかんか。
そういえば二先輩が見当たらない、と見渡せば先輩はもう洗い物を始めている。ここにもおかんがいた。
目が合うと彼女はにっこりと美少女スマイルを浮かべて泡のついた手で手招く。
そのお気楽な表情のせいか、はたまたその発音のせいか、どうしても某アニメしか思い浮かばない台詞と共に皿を受け取る二先輩。
こう見ると美人だし、やさしいお姉さん(というかおかん?)に見えなくもないんだけど。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!