–––あの後、満面の笑みで爆速で着替えと朝ご飯を済ませたクスリさんが右腕にぶら下がっている状況で、何枚かが束になった書類を眺める皆瀬先輩に声をかける。
…そろそろ遅刻なんだけどなぁ。
なんて私の焦りなど気にせず、部屋に揃った私と皆瀬先輩を除いた六人(+一体)が三者三様の返事を返す。
まだ六時ニ十分。
それなのにどっと疲れている自分に気づいて、めまいがする。
––––––どうして。
どうして病ももっていなければ、頭も正常な私がこんな職業に就いているんだろうか……。
ふいに訪れた虚無感に忠実にうじうじと考え込む。
皆さんはのろのろと玄関を出たり、おんぶされたりしたりしてるが知ったこっちゃない。私はもう準備万端であと出るだけだ。
無条件で高卒認定をもらえて、それも一度就けば将来有利になるとかいう詐欺まがいのことを言われたからか。
嗚呼、過去の自分に関節技をきめ、頭を蹴り飛ばして背負い投げしても足りない。
お前ふざけんな、そんな甘言に惑わされたおかげで私は今、こんなにブラック企業(ブラック軍隊とでも言うべきか)でこき使われてるんだぞ。
はぁ、とため息をついて、玄関でブーツを履く。
軍指定の黒いそれを履くのに苦戦しなくなったのはつい最近のことだ。
別に長居したくないので慣れなくてもいいんだけど。
なぜかみんなが前庭に密集してるので門を開けて、私達が寝泊まりしている支部––––––というよりは、家を振り仰ぐ。
一般の家…一般的なものより少し大きい家だけど、特段取り立てることもない、普通の家。
けれど、この家は軍隊の支部である。
あんなバカみたいな光景を繰り広げているが、それでも支部である。
と、相も変わらず私の腕にしがみついていたクスリさんが私を見上げる。
というかお前、朝起きてきた時から髪の毛キッチリ整えてたから絶対起きてただろ。
わざと臭く取り繕うクスリさんに冷たい目を向ける。
それから、私はため息をついて言い放った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!