もう幸乃に会えないし、謝ることもできない。
そんな後悔に苛まれていると……。
名前を呼ばれた気がして振り向くと、病室の扉の前になぜか幸乃が立っていた。
私は幻覚を見ているんだろうか。
ぼんやりとその姿を見つめていると、幸乃がゆっくりとこちらに近づいてきた。
心配そうに私の顔を覗き込んでいるのは、間違いなく本物の幸乃だった。
私は学校帰りに幸乃のお母さんに会ったこと。
そして、幸乃の病気を知ったことを打ち明けた。
入院着を身につけている幸乃は、とても痩せていた。
きっと私の知らないところで病気と闘っていたのだと思う。
なんで幸乃が消えずにいるのかはわからない。
でも、今私ができるのは自分の気持ちを幸乃に伝えることだけだ。
幸乃は、そっと私の手に触れてくれた。
とても痩せてしまったけれど、幸乃の優しい体温だけは変わらない。
幸乃が強くないことを、私は知っている。
周りに心配をかけないよう気丈に振る舞っていても、きっとひとりの時には悔しさで泣いていたはずだ。
ふたりして、泣きながら抱き合った。
幸乃のことを、救いたい。
どうすればいいだろう、私に、なにができるだろうか。
その時、床に落ちている消しゴム手帳が目に留まった。
幸乃の名前を書いたページは破いたけれど、他のページはまだ残っている。
こんなアイテム、もう使いたくない。でも……。
――『この手帳に書き込んだものは、なーんでも消えちゃうんだ!』
密ちゃんの声が、頭の中で聞こえた。
なんでも消すことができるのなら、ひょっとして……?
1か月後――。密ちゃんは少し遠い場所から元気になった幸乃と、その隣で一緒に買い物を楽しんでいる沙耶香の姿を眺めていた。
沙耶香が、すがるようにして消しゴム手帳に書き込んだこと。
【幸乃の病気】
消しゴム手帳は、書き込んだものをなんでも消してしまうアイテム。
おかげで、幸乃のことを苦しめていた病気は綺麗に消えてしまった。
密ちゃんの隣には、唯一の友達であり、名前を借りている黒猫ヒソカがいた。

















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。