第7話

藤木沙耶香⑥
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2026/04/03 09:00 更新
もう幸乃に会えないし、謝ることもできない。

そんな後悔にさいなまれていると……。
幸乃
幸乃
沙耶香?
沙耶香
沙耶香
え……?
名前を呼ばれた気がして振り向くと、病室の扉の前になぜか幸乃が立っていた。

私は幻覚を見ているんだろうか。

ぼんやりとその姿を見つめていると、幸乃がゆっくりとこちらに近づいてきた。
幸乃
幸乃
さ、沙耶香、大丈夫?
心配そうに私の顔を覗き込んでいるのは、間違いなく本物の幸乃だった。
沙耶香
沙耶香
な、なんで幸乃がここに……
幸乃
幸乃
それはこっちのセリフだよ。
どうして沙耶香が病院にいるの?
私は学校帰りに幸乃のお母さんに会ったこと。

そして、幸乃の病気を知ったことを打ち明けた。
幸乃
幸乃
もうお母さんってば、絶対に内緒にしてって言ったのに……
入院着を身につけている幸乃は、とても痩せていた。

きっと私の知らないところで病気と闘っていたのだと思う。

なんで幸乃が消えずにいるのかはわからない。

でも、今私ができるのは自分の気持ちを幸乃に伝えることだけだ。
沙耶香
沙耶香
幸乃、ごめんね
幸乃
幸乃
なんで沙耶香が謝るの?
沙耶香
沙耶香
私は幸乃のことを信じることができなかった。
本当にごめんなさい……
幸乃
幸乃
謝らなきゃいけないのは私のほうだよ
幸乃
幸乃
沙耶香にひどいことをいっぱい言ってごめんね
幸乃は、そっと私の手に触れてくれた。

とても痩せてしまったけれど、幸乃の優しい体温だけは変わらない。
幸乃
幸乃
沙耶香、私ね、けっこう病気が進行していて治らないかもしれないの
幸乃
幸乃
頑張って治療してるんだけど、あんまり効果がないみたいで……
幸乃が強くないことを、私は知っている。

周りに心配をかけないよう気丈に振る舞っていても、きっとひとりの時には悔しさで泣いていたはずだ。
沙耶香
沙耶香
幸乃が病気でも私は離れたくない
沙耶香
沙耶香
幸乃がどんなに突き放しても、私は親友でいるからね!
幸乃
幸乃
沙耶香……私も、私も沙耶香と親友でいたいっ
ふたりして、泣きながら抱き合った。

幸乃のことを、救いたい。

どうすればいいだろう、私に、なにができるだろうか。

その時、床に落ちている消しゴム手帳が目に留まった。

幸乃の名前を書いたページは破いたけれど、他のページはまだ残っている。

こんなアイテム、もう使いたくない。でも……。

――『この手帳に書き込んだものは、なーんでも消えちゃうんだ!』

密ちゃんの声が、頭の中で聞こえた。

なんでも消すことができるのなら、ひょっとして……?
1か月後――。密ちゃんは少し遠い場所から元気になった幸乃と、その隣で一緒に買い物を楽しんでいる沙耶香の姿を眺めていた。

沙耶香が、すがるようにして消しゴム手帳に書き込んだこと。

【幸乃の病気】

消しゴム手帳は、書き込んだものをなんでも消してしまうアイテム。

おかげで、幸乃のことを苦しめていた病気は綺麗に消えてしまった。
黒猫
黒猫
にゃー?
密ちゃんの隣には、唯一の友達であり、名前を借りている黒猫ヒソカがいた。
密ちゃん
密ちゃん
んーなになに。消しゴム手帳を沙耶香ちゃんに渡したのは、こうなることが最初からわかっていたからだって?
密ちゃん
密ちゃん
そんなわけないにゃー。偶然、偶然♪
黒猫
黒猫
にゃにゃー?
密ちゃん
密ちゃん
ああ、消えたはずの親友ちゃんが元に戻れたのは、ページを破ったからだよ
密ちゃん
密ちゃん
手帳に書き込んだ文字は消せないけど、ページを破ると書いたことが〝なかったこと〟になるって、私、沙耶香ちゃんに説明したよね?
黒猫
黒猫
にゃにゃん!
密ちゃん
密ちゃん
うそ、してない?
密ちゃん
密ちゃん
まあ、今回はハッピーエンドってことで結果オーライだにゃ☆

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