第6話

藤木沙耶香⑤
980
2026/03/27 09:00 更新
学校からの帰り道。私はひとりで夕焼けに染まった道を歩いていた。

幸乃がどうなったのか、なんてわざわざ考える必要はない。
沙耶香
沙耶香
(全部、全部、幸乃が悪いんだ)
お母さん
……沙耶香ちゃん?
沙耶香
沙耶香
え?
名前を呼ばれて振り向くと、そこには幸乃のお母さんが立っていた。

どこかに行ってきた帰りなのか、その腕には大きな荷物がげられていた。
お母さん
今、学校の帰り?
沙耶香
沙耶香
あ、は、はい……
私は気まずさに耐えきれずに、目をらしてしまった。

まさか私のせいで娘が消えてしまったなんて、幸乃のお母さんは想像すらしてないだろう。

いつもとは違う私の様子に気づいたのか、今度は幸乃のお母さんのほうが気まずそうな顔をした。
お母さん
沙耶香ちゃん、この前はごめんなさいね
沙耶香
沙耶香
こ、この前?
お母さん
ほら、うちに来てくれた時、幸乃のことで嘘をついてしまったでしょう
お母さん
それにあの子も沙耶香ちゃんにひどいことを……
沙耶香
沙耶香
あー……そ、そのことならもう全然
お母さん
あの子もあの子なりに色々と理由があるの。
でも、沙耶香ちゃんのことを嫌いになったわけじゃないのよ
沙耶香
沙耶香
…………
幸乃のお母さんが、幸乃の味方をするのは当たり前だ。

でも、どんな理由があったとしても、もう私には関係ない。

幸乃を突き放す態度が表情から伝わってしまったのか、お母さんは困ったように眉を下げた。
お母さん
そうよね……理由を言わずに納得してなんて、そんなのダメよね
お母さん
幸乃から口止めされてることだけど、やっぱり沙耶香ちゃんには言うべきことだから言うわ
沙耶香
沙耶香
い、言うべきことって……
お母さん
あの子、血液の病気にかかっているの
沙耶香
沙耶香
え……?
お母さん
発見した時にはかなり進行していて、沙耶香ちゃんがうちに来てくれた日は入院する前日だった
思考が追いつかない。なにがなんだかわからない。
沙耶香
沙耶香
(幸乃が、病気……?)
お母さん
幸乃は誰よりも病気のことを理解していて、自分がもう治らないこともわかってる
お母さん
だからあの子は……沙耶香ちゃんを突き放したの
お母さん
病気のことを知れば沙耶香ちゃんが苦しむからって……
幸乃のお母さんの声が、やけに遠くに聞こえた。

幸乃は、いつだって私のために泣いてくれた。守ってくれた。

親友をやめると言ったのも、私のためだった。
沙耶香
沙耶香
わ、私はなんてことを……っ
慌てて消しゴム手帳に書き込んだ幸乃の名前を消そうとしたが、擦っても擦っても消えてくれない。
沙耶香
沙耶香
ゆ、幸乃がいる病院はどこですか!?
彼女の入院先を聞いた私は、その場所へと走った。

息を切らせてようやく病院にたどり着き、幸乃の病室がある三階に向かった。
沙耶香
沙耶香
幸乃……!!
勢いよく扉を開けたが、そこには空っぽのベッドが置いてあるだけだった。
沙耶香
沙耶香
やだ、やだ……
ふらふらとベッドに近づいて手を当てると、まだほんのりと温かく、さっきまで幸乃がいたことがわかった。

消しゴム手帳に書き込んだことで、幸乃はこの世界から消えてしまった。
沙耶香
沙耶香
ううっ、幸乃、ごめん……ごめんなさいっ
どんなに謝っても、どんなに戻ってきてと願っても、幸乃はもうどこにもいない。

私が幸乃を信じられなかったせいで、取り返しのつかないことをしてしまった。
沙耶香
沙耶香
……幸乃、幸乃……
うわ言のように名前を呼び続ける中、ポケットからなにかが落ちた。

それは、密ちゃんからもらった消しゴム手帳だった。

【稲森 幸乃】と書かれたページを見つめ、私はビリビリに破いた。

なんでも消せる消しゴム手帳。

だけどページを破り捨てたとしても、私の罪も消えることはない。

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