私の名前は、吉田まおみ。夕闇高校に通う3年生。
小さい頃から走るのが得意だったため、今も陸上部の短距離走選手として活動している。
長年陸上に打ち込んできたけれど、部活動の期間ももう残りわずか。
もうすぐ大切な大会があって、そこで結果を残せば全国大会へと進み、逆に振るわなければそのまま部活は引退になる。
その気持ちだけは誰にも負けない自信がある。
だから私は今日もいち早く練習がしたくて、帰りのHRが終わったあと、すぐ部室に向かった。
私は自分のロッカーを見て、首を傾げた。
部室には各部員専用のロッカーが完備されていて、その中には命の次に大事なスパイクが入っているはずなのに……。
自分のロッカーに入っていたスパイクを、まじまじと確認した。
陸上部員の間でも人気があるアジックスのスパイク。
私は間違われないために自分のスパイクの中敷きにスマイルマークの目印を書いていた。
だけど、ロッカーにあるスパイクの中敷きにはなにも書かれていない。
私と同じ蛍光色のスパイクを持って近づいてきたのは、同じ陸上部の仲間である聖奈だ。
彼女とは中学時代から陸上部でともに汗を流し、喜びも悔しさも分かち合ってきた戦友でもある。
聖奈が得意にしている種目は、私と同じ短距離走だ。
本人いわく陸上を始めたのは私の影響らしく、『まおみは私の憧れだから!』なんて言ってくれたこともある。
そんなふうに言われれば嬉しいし、聖奈のことも自分なりに大切にしてきたけれど、最近は少し心に引っかかることがあった。
偶然同じになってしまったなら仕方ないって思えるけど、聖奈は意図的にいつも私の真似ばかりをする。
スパイクだけじゃない。ウィンドブレーカーもエナメルバッグも、最近飲み始めたグミサプリも一緒。
聖奈に悪意はなく、私のことを本当に慕ってくれている。
……だからこそ私は、なんでも真似をするのはやめてほしいと強く言うことができずにいた。
複雑な気持ちを抱えながらグラウンドに移動して、聖奈の走りを見ることになった。
スタートが苦手だった聖奈は、私と同じようにしっかりと体を前に傾けて、重心を低くしていた。
そして走り出した聖奈の姿を見て、心臓がバクバクと音を立てた。
腕の振り方も、姿勢の切り替えも、足が地面に着く瞬間の受け止め方も、全部が私の走りにそっくりだった。
100メートルを走りきった聖奈は、満面の笑顔で振り向いた。
私は今まで死ぬほど練習してきた。
速く走るための努力を惜しまず、部活以外の場所でも練習したし、自分の走りを動画で確認して、フォームの改善ポイントを見つけながら模索してきた。
そうして、ようやく手に入れたのが、今の走り方のフォームだ。
……それなのに、あっさり聖奈に真似されてしまうなんて。
どんなに努力をしても、聖奈に盗まれる。
私がもっと頑張ればいい話かもしれないけれど、なんだかすごく怖くなってしまった。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。