放課後のグラウンドは、薄暗い夕日に染まりながら汗の匂いをまとっている。
トラック種目の100メートル、200メートル、800メートル、それからフィールド種目の走幅跳、走高跳、砲丸投、やり投。それぞれが自分の専門種目の練習に力を入れていた。
そんな中、100メートルのレーン前が賑わっていた。
みんなの視線を集めている聖奈は「調子がいいのでもう一本いいですか?」と声をかけ、またスタートラインに立つ。
そして風を切るように走り出すと、またタイムが伸びていた。
タイムを計っている顧問の先生も、聖奈の成長に驚きを隠せず、興奮した様子だ。
遠くからでも、聖奈のやる気がひしひしと伝わってくる。
100メートルの女子の平均は17秒台。陸上部員だと大体15秒前後で、私の最速記録は14.5秒だ。
今まで聖奈は15秒を切ったことがなかったのに、今では確実に14秒台をキープしている。
聖奈の進歩を見るたび、私の中に焦りが募る。
彼女がこんなにも速くなったのは、私の走り方を完璧に真似するようになってからだ。
見れば見るほど聖奈の走りのフォームは、私そのもの。
それなのに周りは、聖奈自身が努力して作り上げたと思っている。
聖奈のタイムが上がるたびに、気ばかりが焦ってしまい、私は思うように走れない。
今は大会に集中しなければいけない時なのに、タイムもどんどん落ちている。
次の大会は出場制限はないけれど、いい結果を出さないと全国進出は望めない。
嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた聖奈の手には、14.6秒と表示されたタイムウォッチが握られていた。
ドクンドクンと、心臓がうるさい。
聖奈には悪気も、私に対する敵意もない。それはわかっている。わかっているけれど、冷静ではいられない。
聖奈の無邪気な言葉が、どうにもこうにも鼻につく。彼女は「もう一本走ってくるね!」と言って、またトラックのほうに向かっていった。
聖奈には負けない。負けるはずがない。
だけど、焦りはさらに膨らんでいく。
その時、同じ陸上部員の声がした。
私は女子たちの話に耳を傾けながら、練習に打ち込んでいる聖奈に目を向けた。
聖奈は人懐っこい性格も相まって、色んな人からアドバイスをもらっているだけじゃなく、顧問の先生のことも独り占めしている。
そこに悪意はないから仕方ないって思っていたけれど、今は意図的にやっているのではないかと思いはじめている。
そして、真似をされた私が強く怒れないことも彼女は知っているのだ。
勝手にモヤモヤして、勝手に焦っている自分が悪いと思っていたけれど、そうじゃない。
私は夕焼けに染まっている旧校舎を見つめた。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。