密ちゃんからアイテムをもらって1週間。
今日も授業が終わった放課後、私は陸上部のグラウンドにいた。
普段なら自分の練習に没頭しているところだけど、ここ最近は心にゆとりができたおかげで、聖奈に対して技術面のアドバイスをする回数も増えていた。
私はにっこりと笑い、聖奈の練習風景を見守った。
そのあと、10分間の休憩に入ると、私たちは並んで水筒の水を飲みながら一息ついた。
聖奈の走りは日増しに良くなっていて、タイムも驚くほど上がっている。
もしも密ちゃんからのアイテムがなければ、きっと私はまたひとりで焦っていただろうけど、今はとても穏やかだ。
明るい返事をした聖奈は、スパイクの裏についているピンを調整しはじめた。
彼女が履いているスパイクを見て、私は口角を上げる。
いつもと同じに見える蛍光色のスパイクは、密ちゃんからもらった〈ブースターシューズ〉だ。
私はアイテムを自分では使わずに、こっそりと聖奈のスパイクと入れ替えていた。
走れば走るほど足に負担がかかる〈ブースターシューズ〉。
そのデメリットを聞いた瞬間、私は迷わず聖奈に使わせようと思った。
聖奈のことは友達だけど、正直思うことはたくさんあった。
私のことを過剰に褒めてくるところも正直ありがた迷惑だったし、なによりなんでも無邪気に真似してくるところが本当に嫌だった。
今までは我慢してきたけれど、私の走り方まで徹底的に真似をされ、聖奈が得意気な顔をしていることだけは許せなかった。
だから、私はもう手段は選ばない。
聖奈にたくさん走らせれば、いずれアイテムの副作用が出てくる。
そして大会が二週間後に迫ったある日のこと。
聖奈は練習中、足に強い痛みを覚え、病院で精密検査を受けることになった。
医師の診断では、アキレス腱に炎症があり、全治二週間とのことだった。
きっと〈ブースターシューズ〉の影響だろう。
いつもは笑顔を絶やさない聖奈もさすがに顔を曇らせて落ち込んでいた。
仮に大会に出場できたとしても、二週間も休めば、本来のパフォーマンスを発揮するのは難しい。
それでも聖奈の負けん気は私と同じくらいあるから、きっと無理をしてでも大会に出ることはわかっている。
でも、それでいい。
聖奈が頑張れば頑張るほど足へのダメージはさらに進行して、治るどころか悪化する一方だ。
私は悪魔の微笑みを浮かべて、聖奈の肩に手を置いた。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!