第2話

藤木沙耶香①
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2026/02/27 09:00 更新
私の名前は藤木ふじき沙耶香さやか夕闇ゆうやみ高校に通う1年生。

この学校は、私から見ればすごく平和。

先生もそこまで厳しくないし、クラスメイトたちもみんないい子ばかりだけど、ひとつだけ気になることがある。

それは、特別なアイテムをくれるひそかちゃんというユーレイの噂だ。

学校に〝そういう話〟は付き物で、中学の頃もトイレの花子さんだったり、理科室の人体模型が動く、なんていう怪談が存在していた。

まあ、どれも作り話で、私は元々そういう系の話は信じない主義だけど、夕闇高校の密ちゃんはどうやら〈本物〉らしい。
クラスメイト
ねえ、沙耶香ちゃん、プリ交換しよ!
自分の机に張りついてぼんやりしていたら、同じクラスの友達が声をかけてくれた。

最初は少し不安だった高校生活だったけど、今はそれなりに楽しく過ごしていて、こうして新しい友達もできた。
沙耶香
沙耶香
プリ交換ね、うん、いいよ、しよ~!
私は机の横にかかっているカバンから、  100均で買ったミニフォトアルバムを取り出した。

プリクラ入れとして使っているアルバムには今まで撮ったプリクラが収められていて、その中で一番新しいものを友達に渡した。
クラスメイト
わーありがとう! 沙耶香ちゃんっていつもこの子と遊んでるよね?
沙耶香
沙耶香
うん。小学校から一緒の幸乃ゆきのだよ
クラスメイト
もしかして親友?
沙耶香
沙耶香
えっと、まあ、そ、そうだね
クラスメイト
親友がいるなんて羨ましい~!
沙耶香
沙耶香
あははは……あ、い、一時間目の授業ってなんだったっけ?
私は、思わず話をらしてしまった。

小学校で同じクラスになってから、幸乃は自分にとって一番仲良しの女の子だった。

私は昔から人と積極的に関わるのが得意で、幸乃はどちらかと言えば内気な性格。

最初はあんまり合わないかな、なんて思っていたこともあったけれど、話してみると誰よりもいい子ですぐに大好きになった。

中学生になっても親友であることは変わらず、三年間同じバドミントン部に所属して、学校でも休日でもいつも一緒だった。

高校も同じところを受験するつもりだったが、私の学力が足らずに断念。

高校は別々になってしまったけれど、そのぶん夜は長電話をしたりして、どんなに忙しくても毎日連絡を取り合っていた。

幸乃との関係は、これからも変わらない。

むしろ絆はもっと深くなっていくと思っていた。
沙耶香
沙耶香
(やっぱり、来てないや……)
私はスマホの画面を見ながら、ため息をつく。

幸乃からメッセージアプリの返信が途切れて、一週間が経っていた。

私が送ったメッセージは読んでいるみたいで既読はついている。

催促するのはさすがにうざいかなと思いつつ、さりげなく確認してみても返事はない。

もしかしたら、なにかあったのかもしれないと昨日電話をしてみたけれど、幸乃は出なかった。
沙耶香
沙耶香
(本当に、どうしちゃったんだろう)
沙耶香
沙耶香
(風邪を引いて寝込んでいるか、あるいは事故……ううん、事件に巻き込まれていたりして……)
そう思ったら居ても立ってもいられない気持ちになり、もう一度電話をしてみようと思っていると……。

ブーブー。手の中のスマホが鳴った。

届いた通知は、幸乃からのメッセージだった。

急いでトーク画面を開くと、こんなことが書かれていた。

【ずっと返信しなくてごめん】

【なんか色々考えたんだけど、沙耶香と仲良くするの疲れちゃったっていうか……】

【一方的で悪いんだけど、もう沙耶香と親友やめたい】
沙耶香
沙耶香
……え、なにそれ、どういうこと?
すぐに理解できなくて、心臓だけが胸の内側でバクバクと音を立てている。

メッセージが途切れる前は遊びの計画を話し合っていて、映画を観に行こうという約束までしていた。

それなのに親友をやめたいなんて……。
沙耶香
沙耶香
(え、私、幸乃になにかしちゃった……?)
沙耶香
沙耶香
(だけど心当たりはないし、怒らせるようなことをした覚えもない)
納得できなくて理由を聞いてみたけれど、幸乃から返事が来ることはなかった。
沙耶香
沙耶香
(幸乃、なんでよ……)
それから私は理由も分からずに、幸乃に避けられるようになった。

なにかしたなら謝るし、仲直りしたいだけなのに、幸乃はまったく取り合ってくれない。

──ピンポーン。

そして、私は最後の手段として、今まで何度も行き来したことがある幸乃の自宅を訪ねることにした。
お母さん
あら、沙耶香ちゃん。どうしたの?
インターホンを押した後、家から出てきてくれたのは幸乃のお母さんだった。
沙耶香
沙耶香
こんにちは。あの、幸乃って家にいますか?
お母さん
あー……えっと、まだ学校から帰ってきてなくて
ちらっと玄関のほうを見ると、幸乃が学校に履いて行っているであろうローファーが見えた。
沙耶香
沙耶香
(幸乃が家にいることはわかっている)
沙耶香
沙耶香
(だって、外に自転車が置いてあった)
沙耶香
沙耶香
(幸乃は高校まで自転車で行っているから、もう帰ってきてるはずなのに)
沙耶香
沙耶香
幸乃から家にいないように言えって言われてるんですか?
お母さん
そ、それは……
幸乃のお母さんは、わかりやすく困った顔をした。

なにかあるなら自分の口で言えばいいのに、わざわざお母さんに嘘をつかせるなんて……。
沙耶香
沙耶香
幸乃、いい加減にしてよっ……!!
頭に血が上った私は、幸乃のお母さんを押し退けて玄関に足を踏み入れた。
お母さん
ちょっと、沙耶香ちゃん
沙耶香
沙耶香
すみません。でも、このままじゃ帰れないので
ただの友達だったら、こんなことはしない。

幸乃は、初めてできた親友だし、簡単には失くせない。

私が幸乃のことを大事に思っているように、幸乃も私のことを大事に思ってくれているはずだって、信じたかった。
沙耶香
沙耶香
ねえ、なにかあるなら言ってよ!
私たち今までそうやってきたでしょ?
幸乃の部屋がある二階まで届くように、声を張り上げた。

喧嘩やすれ違いが起きても、私たちはそのたびにお互いに思っていることを言い合ってきた。

なにがあっても、ふたりの間では隠し事はしない。

それが、私たちの約束でもあった。
幸乃
幸乃
だから、私は沙耶香に伝えたでしょ。
もう仲良くするのが疲れたの
ギリギリ聞こえる声で、返事が上から返ってきた。
沙耶香
沙耶香
疲れたって、なんで急に?
だって、それまでは普通だったじゃん
幸乃
幸乃
普通じゃないよ。ずっと我慢してた
沙耶香
沙耶香
が、我慢?
幸乃
幸乃
今までは沙耶香しか友達がいなかったけど、今は新しい高校でたくさん仲良しの子が増えた
幸乃
幸乃
だからもう、無理して沙耶香と一緒にいる必要はない
沙耶香
沙耶香
な、なにそれ……
幸乃
幸乃
帰ってよ! もう私に関わらないで!
幸乃からの言葉がショックすぎて、足に力が入らない。
沙耶香
沙耶香
(幸乃のことを大切に思っていたのは、私だけだったの?)
楽しかったことも、嬉しかったことも、幸乃と過ごした大事な思い出も、ぜんぶぜんぶ嘘だったのかもしれない。

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