第25話

永井花⑥
934
2026/08/07 09:00 更新
青白い光が消えたあと、私は密ちゃんの記憶の残像から解き放たれた。

ふいに知ってしまった、悲しい悲しい密ちゃんの秘密。

胸が苦しくなっていると、突然大きな音がした。

ドンドンドンドンッ!
生徒
ちょっと、早く階段を出しなさいよ!
その音に目を覚ました密ちゃんは、両手を上に突き上げて伸びをした。
密ちゃん
密ちゃん
もう、うるさいにゃ~~
語尾に『にゃー』がつく密ちゃんは、記憶の中で見た彼女よりもどこか幼く感じる。だけど、記憶が見える前、密ちゃんは泣いていた。
花
(まだ過去に苦しんでるのかもしれない……)
なにか声をかけたかったけれど、黒猫ヒソカちゃんと入れ替わっている体では、なにも言うことができなかった。

ドンドンドンドンッ!
生徒
この前貰ったブレスレットを落としちゃったの! だから、また同じものをちょうだい!
階段の上で、女子が叫んでいる。どうやらロッカーを必死に叩いているみたいだけど、ここに繋がる階段が現れずに怒っている様子だ。
密ちゃん
密ちゃん
どんなにお願いされても、アイテムは一人につき一つだけ。落とした自分が悪いんだよ
密ちゃんは、呆れた顔で女子の声を無視している。そのうちに諦めたのか、静かになった。
花
(落としたブレスレットって、もしかして……?)
すると、秘密の教室に誰かがやってきた。それは、私の姿をした黒猫ヒソカちゃんだった。
密ちゃん
密ちゃん
おかえり。人間の世界はどうだった?
黒猫
黒猫
にゃー!
密ちゃん
密ちゃん
あれ? 今なら人間の言葉が喋れるでしょう?
黒猫
黒猫
にゃーにゃー
密ちゃん
密ちゃん
やっぱり猫のほうが気楽でいいって?
そっかそっか。じゃあ、元に戻りなさい
密ちゃんがそううながすと、私の姿をしたヒソカちゃんが体当たりをしてきた。
花
にゃっ……!
(わっ………!)
思わず目を閉じ、おそるおそる瞼を開けると、驚くべきことに──。
花
も、元に戻ってる!!!
数時間ぶりの自分の体は、まるでどこかで遊んできたかのように制服が少し汚れているだけで、他はなにも問題なさそうだ。

一方のヒソカちゃんは毛並みに不満があるみたいで、すぐさま自分の体をペロペロと舐めていた。
密ちゃん
密ちゃん
その右腕に着いてるアイテムは〈チェンジブレスレット〉だよ。ブレスレットをつけた状態で誰かにぶつかると、体を入れ替えることができるんだ
花
……もしかして、最初から入れ替わっていることに気づいてたの?
密ちゃん
密ちゃん
さあ、それはどうかにゃ
わかっていたのなら、どうして密ちゃんは私の前で涙を見せたのだろう。

なんで、私に密ちゃんの過去が見えたのだろうか。

もしも誰かに知ってほしいという密ちゃんの気持ちが残像となり、私に過去を見せたのだとしたら……。

アイテムを拾って、ここに導かれたことにも意味があるような気がした。
花
密ちゃん、私と友達になりませんか?
その言葉を伝えると、密ちゃんはわかりやすく驚いていた。
密ちゃん
密ちゃん
おかしな花ちゃん。ユーレイと人間が友達になれるわけがないでしょ?
花
そんなの関係ないよ!
密ちゃん
密ちゃん
甘い言葉で誘惑して、私のアイテムが欲しいだけのくせに
花
アイテムは、一人につきひとつなんでしょ?
花
だったら私はもうチェンジブレスレットを使ったからもらう資格はない。それにアイテムなんていらない。私は密ちゃんの友達になりたいの!
私が見た生前の密ちゃんの姿は、ほんの一部分に過ぎない。

だけど、いじめられていた友達をかばって、野良猫に名前を付けてあげた密ちゃんは、誰よりも優しい女の子だった。

すると、密ちゃんはふっと笑ってみせた。
密ちゃん
密ちゃん
本当におかしな花ちゃん。友達にはなれないけど、私の本当の名前を教えてあげる
花
本当の名前?
密ちゃん
密ちゃん
弥生やよいはな。あまり呼んでもらうことはなかったけど、私の名前も『はな』だったの
密ちゃんじゃなくて、華ちゃん。

すごくすごく綺麗な名前だと思った。
花
私、友達になることは諦めない!
密ちゃん
密ちゃん
え?
花
また絶対に密ちゃん、ううん、華ちゃんに会いにくるからね!
そう伝えた瞬間、私の意識は静かに途絶え、辺りを見回すとそこは秘密の教室ではなく、中庭になっていた。
友達
花―。そろそろ戻るよ?
近づいてきたのは、私の掃除が終わるのを待っていてくれた友達だ。
花
え、今何時?
友達
何時って、掃除が終わる1分前だけど?
呆然としている私を見て、友達は不思議そうに首を傾げていた。

どうやら、体が入れ替わる前の時間に戻っているらしい。

全部が夢だったのではないかと思ったけれど、私の腕には密ちゃんのアイテムが着いたままだった。
花
(きっとこれは、また会う約束の印)
私はブレスレットが壊れないように、そっとハンカチに包んだ。

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