密ちゃんに会ってから3日が過ぎても、私はまだアイテムを使うことができずにいた。
最初のページに書いた【幸乃へのモヤモヤ】という文字を、試しに消しゴムでこすってみたけれど、密ちゃんの言うとおり消すことはできなかった。
一週間に一度行われるLHR。いわゆる学級活動で、主に係の分担決めや行事ごとの話し合い、先週は席替えをする時間に使ったが、まさか小テストが配られるとは思っていなかった。
クラスメイトから次々と不満が上がっても、担任は知らん顔をしている。
私は消しゴム手帳を見つめた。
なんでも消すことができるのなら、もしかしてテストも……?
【抜き打ちの小テスト】
テストを回避するために、急いで消しゴム手帳に書き込んだ。
すると、テストを配ろうとしていた担任の動きが止まった。
いきなりテストの中止が宣言されたことで、クラスメイトは大喜び。
自分で願ったこととはいえ、消しゴム手帳の効果に唖然としてしまった。
その日を境に、私はアイテムをうまく使うようになった。
例えば、提出しなければいけない課題自体を消したり、クラスの友達の前でやってしまった恥ずかしい失敗を消したり、朝寝坊をしてしまった時には、その日の授業を消して学校を休みにしたりもした。
消しゴム手帳さえあれば、私はなんでも望みどおりにできる。
まるで神様にでもなった気分だったが、ひとつだけどうしても自分の中で消せないことがあった。
ひどい言葉を投げつけられて、一緒にいる必要はないとまで言われたのに、やっぱり幸乃のことだけは忘れることができなかった。
そして私は、久しぶりに幸乃と繋がっているメッセージアプリを開いた。
ブロックされている可能性もあるけれど、もう一度だけ幸乃に会いたい。
【いきなり連絡してごめん】
【私のこと嫌いかもしれないけど、少しだけ話せる時間を作ってくれないかな】
【本当に少しでいいから、また幸乃と会って話しがしたい】
どうしてこんなにも幸乃への気持ちが消えないのか、それは自分の中ではっきりしている。
たしかアレは中学生になってすぐの出来事。
なにかの勘違いで私がバド部の先輩の悪口を言っているという噂が広がってしまった時のことだ。
よりにもよってすごく怖い先輩で、案の定私はその人に呼び出された。
結果的にその先輩を含む数人の女子に囲まれてしまい、私は自分の意見を言うことができずに、理不尽な言葉責めをただ聞いていることしかできなかった。
――『沙耶香は悪口なんて言いません!』
その時、幸乃が先輩たちの前に立って、私のことをかばってくれた。
堂々とした口調とは真逆に、彼女の手は震えていた。
そのうちに授業のチャイムが鳴って先輩たちから解放されると、緊張が解けたように幸乃が泣いた。同じように怖かったのだと思いきや……。
『沙耶香が勘違いされて悔しい!』
幸乃は、私のために泣いてくれていた。
だから私も、幸乃のことを誰よりも大切にしようと決めた。
〝今までは沙耶香しか友達がいなかったけど、今は新しい高校でたくさん仲良しの子が増えた。だから、もう無理して沙耶香と一緒にいる必要はない〟
あんなの、幸乃の本心じゃない。
そんなこと、あるはずがないんだ。
【私は沙耶香と話すことなんてない】
【もう連絡してこないで】
幸乃から返ってきたメッセージを見て、私は膝から崩れ落ちた。
幸乃のことを、信じたかった。
でも、私が大好きだった幸乃はいない。
親友じゃない幸乃なんて、もういらない。
【稲森 幸乃】
私は、幸乃の名前を消しゴム手帳に書き込んだ。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。