第24話

永井花⑤
707
2026/07/31 09:00 更新
弥生
弥生
もういじめなんてやめなよ!
次の日。いつものようにナツキの悪口を言っているミヨに注意した。
ミヨ
え、なに急に
弥生
弥生
ナツキは友達でしょ?
ミヨ
いや、先に裏切ったのはあっちだから
弥生
弥生
裏切ったんじゃなくて、ミヨに気を使って言えなかったんだよ
弥生
弥生
黙っていたナツキにも悪いところがあったかもしれないけど、だからって傷つけていい理由にはならないでしょ?
ナツキ
……………
やり取りを聞いているナツキが目を丸くしていた。
弥生
弥生
(手が、震える)
弥生
弥生
(だけど、私はナツキの友達だから守りたい)
ミヨ
じゃあ、弥生は私よりナツキの味方ってこと?
弥生
弥生
味方とかじゃなくて、こんなやり方は間違ってるよ
ミヨ
それなら、どんなやり方があるわけ?
弥生
弥生
友達なんだから話し合おうよ。話し合えばきっとまた前みたいに仲良く……
ミヨ
友達じゃないよ
弥生
弥生
え?
ミヨ
弥生とも、もう友達じゃない
それから、いじめの標的はナツキから弥生に変わった。

机の中にゴミを入れられたり、自転車のタイヤをパンクさせられたり、ひどい時には水をかけられることもあった。

学校に行きたくないと親戚の人に頼んでも取り合ってもらえず、日を追うごとに弥生は孤独になっていった。
黒猫
黒猫
にゃ~
そんな中、弥生の話し相手になってくれたのは、学校の裏庭に住み着いている黒猫だった。
弥生
弥生
ほら、今日もご飯を持ってきたよ
黒猫
黒猫
にゃーん!
最初は痩せ細っていた猫も、弥生が世話をするようになってからは毛並みもよくなってきた。
弥生
弥生
君には友達がいる?
黒猫
黒猫
にゃー
弥生
弥生
そっか。実は私もひとりなんだ。一緒だね
黒猫
黒猫
にゃーにゃー!
弥生
弥生
え、君が私と友達になってくれるの?
弥生に猫語はわからないけれど、いつも傍に寄ってきてくれる猫の存在がいつの間にか心の支えになっていた。
弥生
弥生
それなら君に名前をつけないとだね。
うーん、なにがいいかな?
弥生
弥生
あ、秘密の友達っていう意味でヒソカちゃんはどう?
黒猫
黒猫
にゃーん!
黒猫、改めヒソカちゃんは名前を気に入ってくれたようだ。
弥生
弥生
(ヒソカちゃんがいてくれれば、私は大丈夫)
そう思っていた弥生だったが、ミヨたちからのいじめはさらに悪化していった。

体も心も磨り減っていく日々の中で、久しぶりにナツキが声をかけてきた。

ナツキをかばってミヨを敵に回した弥生だったけれど、ナツキは何事もなかったようにミヨたちと仲良くしていた。
ナツキ
弥生もバカだよね。余計なことなんてしなければよかったのに
いじめの苦しさを知っているはずのナツキはミヨの言いなりで、今では一緒になって弥生をいじめていた。
ナツキ
私はお礼なんて言わないし、かばったりもしないよ
ナツキ
だって、学校でひとりぼっちとか地獄じゃん
弥生
弥生
…………
ナツキ
これも因果応報いんがおうほうだと思って受け入れなよ
──因果応報。自分の行いや行動が後々の結果として返ってくること。
弥生
弥生
(私は、なにもやってないのに……)
その日の放課後。みんなと鉢合わせをしないように時間差で帰ろうとしたら、ちょうど昇降口に向かって歩く3人の姿があった。

少し前まであの場所に自分もいたのに、今では遠い昔のように思える。
ミヨ
ぶっちゃけ弥生って、暗いよね
シオリ
わかるー。ちょっとおばけっぽい
ナツキ
目障りだから早く消えちゃってもいいのに
ミヨ
ぎゃははは! ナツキ言い過ぎ~!
なんで、こうなってしまったのかはわからない。

だけど、もう元に戻れないことだけはわかる。

気づくと弥生の足は、学校の屋上に向かっていた。
弥生
弥生
(もう生きていたくない……)
屋上は夕焼けに染まっていた。綺麗な黄昏色の空を見て、誰かが『もういいよ』と言ってくれている気がした。

覚悟を決めた弥生は、転落防止のフェンスの向こう側に足を着けた。

早く消えちゃってもいいと言われた。

だから、消えてあげる。

……ドスンッ!

屋上から飛び降りた弥生は鈍い音とともに、冷たい地面の上に倒れた。
黒猫
黒猫
にゃーにゃー
遠くから、ヒソカちゃんの鳴き声が近づいてくる。

柔らかい感触がした気がして目を開けると、ヒソカちゃんが弥生の頬に頭を擦り付けていた。
弥生
弥生
わ、私……
ハッと横を見ると『自分』が横たわっていた。明らかに生気はなく、すでに息をしていないことがわかる。
弥生
弥生
私、死んだの?
黒猫
黒猫
にゃー
弥生
弥生
そっか。でもヒソカちゃんには私のことが見えるんだね
弥生は、そっとヒソカちゃんのことを抱き上げた。

もう触れることはできないと思ったけれど、その温もりを確かに感じられる。
弥生
弥生
(自分のことを終わらせるつもりだったのに、私はユーレイになった)
弥生
弥生
(だけど、なんとなくその理由がわかる)
弥生
弥生
(私はまだ、ここにいたい)
弥生
弥生
(このままじゃ、終われない)
そうして、弥生は夕闇高校のユーレイになったのだった――。

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