次の日。いつものようにナツキの悪口を言っているミヨに注意した。
やり取りを聞いているナツキが目を丸くしていた。
それから、いじめの標的はナツキから弥生に変わった。
机の中にゴミを入れられたり、自転車のタイヤをパンクさせられたり、ひどい時には水をかけられることもあった。
学校に行きたくないと親戚の人に頼んでも取り合ってもらえず、日を追うごとに弥生は孤独になっていった。
そんな中、弥生の話し相手になってくれたのは、学校の裏庭に住み着いている黒猫だった。
最初は痩せ細っていた猫も、弥生が世話をするようになってからは毛並みもよくなってきた。
弥生に猫語はわからないけれど、いつも傍に寄ってきてくれる猫の存在がいつの間にか心の支えになっていた。
黒猫、改めヒソカちゃんは名前を気に入ってくれたようだ。
そう思っていた弥生だったが、ミヨたちからのいじめはさらに悪化していった。
体も心も磨り減っていく日々の中で、久しぶりにナツキが声をかけてきた。
ナツキをかばってミヨを敵に回した弥生だったけれど、ナツキは何事もなかったようにミヨたちと仲良くしていた。
いじめの苦しさを知っているはずのナツキはミヨの言いなりで、今では一緒になって弥生をいじめていた。
──因果応報。自分の行いや行動が後々の結果として返ってくること。
その日の放課後。みんなと鉢合わせをしないように時間差で帰ろうとしたら、ちょうど昇降口に向かって歩く3人の姿があった。
少し前まであの場所に自分もいたのに、今では遠い昔のように思える。
なんで、こうなってしまったのかはわからない。
だけど、もう元に戻れないことだけはわかる。
気づくと弥生の足は、学校の屋上に向かっていた。
屋上は夕焼けに染まっていた。綺麗な黄昏色の空を見て、誰かが『もういいよ』と言ってくれている気がした。
覚悟を決めた弥生は、転落防止のフェンスの向こう側に足を着けた。
早く消えちゃってもいいと言われた。
だから、消えてあげる。
……ドスンッ!
屋上から飛び降りた弥生は鈍い音とともに、冷たい地面の上に倒れた。
遠くから、ヒソカちゃんの鳴き声が近づいてくる。
柔らかい感触がした気がして目を開けると、ヒソカちゃんが弥生の頬に頭を擦り付けていた。
ハッと横を見ると『自分』が横たわっていた。明らかに生気はなく、すでに息をしていないことがわかる。
弥生は、そっとヒソカちゃんのことを抱き上げた。
もう触れることはできないと思ったけれど、その温もりを確かに感じられる。
そうして、弥生は夕闇高校のユーレイになったのだった――。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。