第4話

藤木沙耶香③
1,323
2026/03/13 09:00 更新
誰ともすれ違えないほど狭い階段は不気味な空気をまとい、ここを下りてしまえばもう二度と帰って来られないのではないかと感じさせるほどだった。
黒猫
黒猫
にゃ~
沙耶香
沙耶香
え、ね、猫?
黒猫
黒猫
にゃ~にゃ~!
猫の鳴き声は、階段の下から聞こえた。まるで、私のことを呼んでいるみたいに。

猫の鳴き声に導かれるように、ゆっくりと足を前に進ませる。

そうして階段を全て下り終わると、机と椅子が整然と並ぶ教室が現れた。
密ちゃん
密ちゃん
ようこそ、秘密の教室へ
沙耶香
沙耶香
ひゃっ……!
私は思わず飛び上がる。黒板の前に置かれた教卓の上に、ボブヘアの女の子が座っていた。
密ちゃん
密ちゃん
私に会いにきたのにどうしてそんなに驚くの? 1年3組の藤木沙耶香ちゃん
当たり前のように私の名前を呼ぶ彼女のセーラー服は、夕闇高校で昔使われていたらしい赤色のリボンだった。
沙耶香
沙耶香
……密ちゃん?
密ちゃん
密ちゃん
うん、そうだよ。信じられないなら、なんでも質問していいよ!
沙耶香
沙耶香
質問……あ、そうだ。杏美あずみっていう女の子に会ったことない?
沙耶香
沙耶香
何年か前の卒業生で、私の友達の従姉妹らしいんだけど……
密ちゃん
密ちゃん
うーん、会ったような気もするけど、忘れちゃったにゃ~
密ちゃんと会った生徒は他にもたくさんいて、全部は覚えきれないらしい。

……きっと、私も同じ。密ちゃんにとっては大勢の生徒の中のひとりに過ぎないのだろう。
密ちゃん
密ちゃん
沙耶香ちゃんも私に助けてほしくてここに来たんだよね!
まだなにも言っていないのに、密ちゃんには全部がバレているみたいだ。
沙耶香
沙耶香
それなら、私がほしいものもわかってるってことだよね?
沙耶香
沙耶香
私は……幸乃の気持ちが知りたい
沙耶香
沙耶香
このまま終わらせるわけにはいかないから
密ちゃん
密ちゃん
親友ちゃんの気持ちを知るアイテムをあげることはできるほど、本当にそれでいいの?
沙耶香
沙耶香
どういう意味?
密ちゃん
密ちゃん
だって親友ちゃんはすでに沙耶香ちゃんに本当の気持ちを言ってるかもしれないでしょ?
密ちゃん
密ちゃん
そうしたら、沙耶香ちゃんはわざわざまた傷つかなくちゃいけないってことになるにゃ~
沙耶香
沙耶香
そ、それは……
沙耶香
沙耶香
(たしかに、密ちゃんの言うとおりだ)
沙耶香
沙耶香
(もしもアレが幸乃の本心だった場合、私はまた聞きたくないことを聞かなければいけないことになる)
密ちゃん
密ちゃん
沙耶香ちゃんはきっと、どんなことを言われても納得できないと思うよ
密ちゃん
密ちゃん
今の沙耶香ちゃんがほしいのは、そのモヤモヤを消す方法なんじゃない?
沙耶香
沙耶香
そんなこと、できるの……?
密ちゃん
密ちゃん
じゃじゃんっ☆
密ちゃんが見せてきたのは、コンパクトサイズの手帳だった。
密ちゃん
密ちゃん
このアイテムは〈消しゴム手帳〉
密ちゃん
密ちゃん
この手帳に書き込んだものは、なーんでも消えちゃうんだ!
沙耶香
沙耶香
な、なんでも?
密ちゃん
密ちゃん
はにゃ? もしかして疑ってる?
密ちゃん
密ちゃん
だったら親友ちゃんへのモヤモヤを今すぐ消しちゃおう!
密ちゃんに言われるがまま、消しゴム手帳に【幸乃へのモヤモヤ】と書き込んだ。

すると、胸の中で渦巻いていたモヤモヤが、本当にスッと消えてしまった。
密ちゃん
密ちゃん
ね? 言ったとおりでしょ?
ただし消えたのは、今までのモヤモヤのぶん
密ちゃん
密ちゃん
これからモヤモヤした場合は当然溜まっていくし、それがわずらわしいなら感情ごと消しちゃうのもありかも?
沙耶香
沙耶香
か、感情……?
思わず、ゴクリと息をんだ。

本当になんでも消してしまえるのなら、ひょっとして人を消すこともできたりするんだろうか?
沙耶香
沙耶香
や、やっぱり他のアイテムがいい!
なんだか急に怖くなってきた。アイテムを返そうとした手は、逆に密ちゃんに突き返されてしまった。
密ちゃん
密ちゃん
残念だけど使ったものはもう返品できないにゃ
密ちゃん
密ちゃん
だから、消しゴム手帳は沙耶香ちゃんのもの。
アイテムと引き換えだから、寿命も貰うね!
沙耶香
沙耶香
じゅ、寿命って、そんなの聞いてない!
密ちゃん
密ちゃん
大丈夫、大丈夫! 沙耶香ちゃんの人生がほんのちょっとだけ短くなるだけだから
沙耶香
沙耶香
(ぜ、全然、大丈夫じゃないんだけど……)
密ちゃん
密ちゃん
あ、ちなみに手帳に書いた文字は消すことはできないから、そこだけ注意してね!
私は半ばだまされる形で、密ちゃんからアイテムを受け取った。

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