第28話

報告義務
3,206
2021/06/03 07:52
翌日の部活、こたは見学していた

枯れた声に重い足取り


みんなのこたへの気遣いが恥ずかしくて
俺は聞こえないフリ



涼「…見ちゃった!」

小さな声で話しかけられたから
逃げるようにグラウンドへ走り出した





部活終わり

小「先輩、タピオカ飲みたい!」
清「じゃ駅前んとこでタピオカミルクティー買う?」

小「紅茶は飲めない…」

清「何やねん、タピオカ言うたらミルクティーやろ」

小「他のにタピオカ入れる!」

清「ん」


そんな普通の会話なのに


慶「なんか…雰囲気って言うか、恋人だなって感じが出てきたね」

清「へ?どこが?」

慶「や、言葉では上手く説明出来ないけど…」

三「昨日看病してもらったからやー!」

涼「看病じゃないよねー?笑」


…この顔は絶対みんなに言う


こたの背中を押して先に帰る事にした








慶「今日だよ、よろしくな」

清「おう!」

生徒会長である市川くん直々に、『HRでみんなに言うけど体育祭の実行委員、今年もやってよ』と頼まれた

運動は得意だし、体育祭の雰囲気が楽しいから2年の時にもやっていた

生徒会と一緒で市川くんもいるから心強い





指定された教室で始まりの時間を待つ

段々と人数が増えていき、ボーッと教室の入口を見ていると
1人の男が入ってきた


目が合う


…ん?



たまたまか…?
じっと見られた気がした



莉「先輩!」

清「りく!全然会わんかったから久しぶりやな」

莉「会いたかったー!」
りくが背中にくっついてくる

清「サッカー部に入れば会えたのに」

りくは中学の時に親しくしていた1学年下の後輩だ

莉「球技は苦手!ね、先輩に相談があるんだけど…」


その時、見慣れた姿が教室に入ってくる

清「あ…」

声を掛けようと思ったが、それより早く話しかけた人がいて…


さっきの奴や…


莉「どうかしました?」

清「あ、ううん」



時間になると生徒会からの話があり、その後それぞれの役割分担を決める

俺は推薦もあり、体育祭の実行委員長になった



打ち合わせが終わるとりくが来たので一緒に教室を出た


清「けんとと喧嘩でもしたん?」

莉「聞いてよ、けんとが最近塾とか勉強で構ってくれなくて…」

清「受験生やからしゃーないと思うで?俺らは附属の大学行くやつも多いからまだマシやけど」

莉「今から受験終わるまでなんて耐えられない!」

清「たまに遊んだるから我慢しいや笑」

莉「ね、プリ撮ろうよ!けんとにも見せたいし!」


初めての集まりで決め事も多かったから、グラウンドはほとんど人が居なかった



涼「あれ?先輩、こたと一緒じゃないんだ?」

前方にりょうがとみなとが歩いていた


三「えー、先輩がやるから手伝おうかなってこた言ってたのに」

清「あ、そうなんや…」



莉「部活の子?」

清「うん、りょうがとみなと」

莉「どうも!2年の日之出です!」



伺うように俺の顔を見る2人

清「中学の後輩!俺の中学の時の同級生と付き合ってるから仲良くなったんよ」

涼「あっ、そうなんだ!良かった」

急に態度が軟化する

…何でもそっちに取らんでよ



莉「じゃ、行こっ!」

りくが俺の腕を取る



?「先輩、何でこたを置いて帰っちゃったんですか?」

聞きなれない声に振り返ると…



端正な顔立ちの男とこたが居た


さっきの…


清「…誰か知らんけど、初めましてなんやから挨拶くらいしてや」


?「…1年の水原匡也です」


莉「先輩、俺まずかった?」


匡「先輩はこいつと付き合ってるけど、知ってますか?」


莉「え、そうなんだ!」


匡「言ってないんだ…」


三「あ、この人は中学の後輩やって」
涼「そう、彼氏持ちだし、別に何でもないよ」

りょうがとみなとがフォローする


何で知らんやつに避難されなあかんの
絶対こいつ勝手に勘違いしとるやろ


清「こた、お前が置いて帰っちゃったって思ったん?」



そう言い終わる前に、実は後悔していた

こたの唇が一瞬歪んで楽しそうにしてるのが分かったから



小「うん、先輩と一緒に帰れると思ってたから…」



可愛らしく喋る姿が憎たらしい


莉「あ、いいよ、先輩と一緒に帰って!」

空気を察してりくが譲る


きょうやはこたに声を掛けて去ってしまう





周囲に知り合いが居ないのを確認して話しかける

清「またやってんな、お前」

小「きょうやが心配しただけ」

清「だったらお前が言えよ、お前が大丈夫って言えば済むんやから。ただの後輩なのに何で一緒に帰ることも出来ないん?」


小「一緒に帰れば良かったのに」

清「そんな雰囲気じゃなかったやん、巻き込まれたりくが可哀想」

小「僕にちゃんと報告してれば、僕からきょうやに説明出来たけどね」



友達と帰るにもこたに報告が必要って…





清「…今度からそうする」

プリ小説オーディオドラマ