(北斗 side)
高校1年生の春。
「やっべ、入学式早々、遅刻かよ。」
とぶつぶつ文句をたれながら、食パンを1枚かじりながら、自転車をこいでいた。
横断歩道を渡り、学校への一直線の坂道を下る直前だった。
満開の桜の木の下で、それを気持ち良さそうに見上げている、金髪で透き通るように白い肌をもつ同じ制服を着た男がいた。
あまりそれが、映画で見るようなワンシーンように感じられたが、カラスの声に我に返り、このままだと遅刻することに気がついた。
ということは、あの人も遅刻するってことか?それは、やばくないか?そう思って、声をかけた。
「あ、あの!もしよかったら、俺の自転車乗っていきませんか?」
その声に驚くように振り返った彼は、今にも儚く消えそうなきれいな顔立ちをしていた。
??「え!いいんですか!!助かりました!入学早々遅刻だと思って……。」
声も普通の男の人より少し高く、とにかく眩しいほどに美しかった。
その美しい人は、俺の後ろにまたがり、俺の腰をぎゅっと掴んだ。同じ性別なのに、キュンとしてしまったが、とにかく遅刻を防ぐために、俺らは坂道を一気に下り始めた。
下っている最中、彼は話しかけてきた。
??「あの〜!!君はなんていう名前なの??」
「松村北斗って言います!!ちなみに六音(ろくね)第一中です。君は〜?」
大「京本大我〜!!ってか、北斗、六音第一なんだ〜!俺と一緒〜!!なんか縁を感じるね〜!」
それを聞いて、驚いてしまって、ブレーキをかけた。
大「うわっ!!どしたの!??」
「同じ中学校ってマジ?」
大「うん!俺は北斗のこと知ってたよ!有名だったからね!イケメンだって」
なんだそれ。ってか、それは京本の方だ。こんな目立つ容姿をしているのに、噂にすらなっていないのが不思議だ。
「やばい!!あと10分!!飛ばすぞ〜!!しっかり捕まってて〜!」
大「はいよ〜〜!!!」
もう、俺はこのとき、彼に恋をしてしまっていたと思う。
これから始まる高校生活が、輝きにみちていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!