抜けた先には古めかしいブラウン管テレビが一つ置いてあるだけの部屋だった。
部屋に入りキョロキョロと辺りを見回すとブツッとテレビに電源が入った。
クスクスっと笑いを堪えきれてない声でそう言うがもう無視してテレビに意識を向ける。
テレビから真っ白な明らかに幽霊だとわかる風貌の男性が何かを語っていた。
テレビから聞こえてきたのはあかねという言葉。
いやいやまさか、偶々一致しただけだと思いつつもどうしても紅寧を思い出してしまう。
喧嘩したままうまく言葉を交わせずに引きずっている紅寧。
よく見るとテレビの下にこのお化け屋敷の地図らしい紙と一緒に顔は古ぼけてて見えないが白いワンピースを着た少女の写真があった。
恐らく、そのあかねを探してどこかに連れていけばいいのだろう。
だけどあかねという名前といい、大切という言葉といい、どうも親友の紅寧を思い出す。
澄晴が地図と写真を取り、調べているとふと写真の裏を見てあっ、と声を上げた。
そう言いながらこちらに写真の裏側を見せてくれるとこう書いてあった。
ぼくの愛するアカネへ
ごめんなさい
ぼくの事を想ってくれたのにぼくが素直じゃないばかりに喧嘩してしまって
あの時のぼくに優しくハンカチを差し出してくれたのにぼくは意地なのか我儘なのかハンカチを受け取れませんでした
その時の悲しそうな表情は今も覚えてます
そのまま喧嘩してしまい、一週間、一月、一年と経ち疎遠になってしまいましたね
大人になってアカネが喧嘩したあとすぐに亡くなった事を知りました
ぼくは謝ろうとしなかったのに、アカネはぼくに謝ろうとぼくと出会った場所に向かう最中に事故に遭い、亡くなりました
本当にごめんなさい
ぼくは謝っても謝りきれません
ぼくがアカネを死なせてしまいました
何度謝っても謝っても許されないと思います
ずっと生きてその分アカネの苦しみを背負いながら贖罪していく筈だったのに今度はぼくが病気になり余命があまりありません
正直死にたくありませんがこれが神様からの罰だと言うのならばぼくは潔く受け入れます
ですが、一度だけ願い叶うならば今度は直接会って謝りたかったです
本当にごめんなさい、アカネ
恐らく普通の人ならば、ただのお化け屋敷のストーリーの一部にしかならないのだろう。
だけども、この手紙は私にとっては、なんだか特別に思える。
この手紙の主はアカネという人物を大切に思ってたのに一度の喧嘩で全てが終わってしまったのだろう。
その状況が今の私達と、今後の私達を表してるようでとても嫌な気分だった。
私達はまだ生きている、まだやり直せる。
そう思うと不思議と謝りたいという気持ちでいっぱいだった。
それなのに人間の恐怖は思うように払拭できず、お化け屋敷という現状のせいで足を踏み出せずにいた。
その状況を察したのか澄晴はこちらを見ながら
そう言われるがまま、私は澄晴に背負われながらそっと目を閉じ、紅寧の事を想い続けた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!