現在、5時。
駅のホームで玲於と手を繋いで電車を待つ。
うそうそ、ごめん
って左手を手に持ってきて笑う。
癖なのかな。
いつも笑う時は口に手を持ってくる。
楽しそうに笑っていた顔は悲しそうに笑う玲於になっていた。
過去一…か。
そう考えると私もそう思う。
そっか…
1週間が経てば玲於も私に関わらなくなる。
カバンにつけたクラゲがホームに
入ってくる電車の風になびかれて動く。
電車の中は満員電車。
電車に来ると絶対玲於は嫌な顔をする。
人混み嫌いなのか。
降りてくる人を待ちながら玲於の手も握る。
それにしても人が多い。
帰宅ラッシュか。
その時。
ガタイのいい男の人とぶつかってしまい
その場に倒れ込んだ。
玲於がすぐに手を出してくれて
地面に着いた服の部分を払って立ち上がる。
もう、前見て歩いてよ…
あれ…
無い。
カバンに着いていたはずのクラゲが無い。
玲於の顔を見ると " 失くした " なんて言えなくなる。
玲於の悲しむ顔は見たくない。
絶対、知られちゃいけない…
行こって玲於が電車乗り込む。
私も、一緒に乗り込む。
私の心臓はバクバクと大きく動く。
なくしちゃった…?
そんなの嫌。
「左側のドアが閉まります…」
アナウンスが鳴ったと共に閉じそうになりそうなドア。
その時、玲於の手からスルッと抜けて
電車から出た。
玲於がドアにくっついて私に何か言ってる。
ごめん…
私、このままじゃ帰れないから。
" 大事にしろよ ~ 。 "
そう言った玲於の言葉がぐるぐる頭を巡る。
探さなきゃ。
大きな音を立てて走り出す電車を見送って
少なくなった人のホームの中を腰を低くして探す。
どんなけ探してもなかなか見つからない。
意外と小さかった。
紐は青色でクラゲ自体は水色。
ホームの地面は黒く、パッと見ただけ
すぐ見つけやすい色なのに。
なかなか、見つけることが出来ない。
ずっと地面を探していた私の目の前にゴミ箱。
私はあわててゴミ箱を漁る。
少しいるホームの人は私を見てどう思ってるんだろう。
いつもなら気になって仕方ないと思うが
今日は全然気にならない。
探さなきゃ…!
ホームに散らばるゴミは
次々に入ってくる電車の風で舞う。
わぁ…痛い。
みんなの視線が痛い。
無い…
ゴミ箱にも無い。
なら、どこにあるの
探す気力も抜けてゴミをゴミ箱に戻す。
視界がグラグラ揺れて滲む。
ゴミを戻し終えて携帯を見る。
ネットで電車の時刻表を確認。
…10分後。
携帯をしまってホームに並ぶ。
ホームに通る風が私の前髪をなびかせた。
さっきまで着いていたキーホルダー。
今はない。
その面影を残してどこかへ─────────
プルプルプルプル…
携帯が鳴った。
取り出して画面を見ると
きっと、怒ってる。
何してんの。ってカンカンだ。
怒られる。
もう、呆れられて今日で終わりかもしれない。
ずっと鳴り響く電話のコールが強く私に
訴えているようで怖かった。
その覚悟で画面をスクロール。
駅のホーム。
そう言ったら 今から行く とか言いそう。
嘘ついた。
つきなくもない嘘。
なのに…玲於は
なんで…?
そう言われるとまた、目に涙が溜まる。
もう、泣きたくない…
零れる涙を手で拭き取った。
そんな…心配してるんだ。
そう後ろから私に話しかける人が─────────
私と今、電話してる…人が…
ニコニコ笑うその笑顔は今の私にとってすごく辛い。
汗をいっぱいかいて私に笑いかけてくる。
玲於の手には私の探し求めていた…クラゲ…の…
にしし と、笑う。
涙が止まらない。
よかった。
見つかった…
私の手にクラゲのキーホルダーが乗る。
なんて、嘘をつく玲於。
なら、なんでそんなに手、怪我してるの?
赤くなって所々血が滲んでいる。
よかった。
私の頭をガシッと掴んで揺らした。
それから、ゆっくり手を繋いだ。
そうボソッと呟いた玲於の声はホームに
入ってくる電車の音で徐々に消された。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!