第25話

" 大事にしろよ "
2,035
2018/12/06 05:46
現在、5時。
あなた

最近、明るくなってきたよね。

駅のホームで玲於と手を繋いで電車を待つ。
玲於
夏が近づくな。
あなた

夏って嫌い…

玲於
なんで?
あなた

暑いし…日焼けするし…

玲於
なにそれっ…笑
女子じゃん。
あなた

いや、私女子ですけども!

うそうそ、ごめん


って左手を手に持ってきて笑う。
癖なのかな。


いつも笑う時は口に手を持ってくる。
玲於
あなたさんと手を繋げるのも
今とあと1日しかないって…
楽しそうに笑っていた顔は悲しそうに笑う玲於になっていた。
あなた

1週間って早いね。

玲於
過去一早い1週間。
過去一…か。


そう考えると私もそう思う。
そっか…


1週間が経てば玲於も私に関わらなくなる。
カバンにつけたクラゲがホームに


入ってくる電車の風になびかれて動く。
電車の中は満員電車。
玲於
わ…最悪。
電車に来ると絶対玲於は嫌な顔をする。


人混み嫌いなのか。
あなた

さ、行こっか。

降りてくる人を待ちながら玲於の手も握る。
それにしても人が多い。


帰宅ラッシュか。
その時。
あなた

わっ…!

ガタイのいい男の人とぶつかってしまい


その場に倒れ込んだ。
玲於
大丈夫!?
玲於がすぐに手を出してくれて
あなた

うん…大丈夫!

地面に着いた服の部分を払って立ち上がる。


もう、前見て歩いてよ…























あれ…


無い。






















カバンに着いていたはずのクラゲが無い。






















あなた

うそ…

玲於
え?どうした?
玲於の顔を見ると " 失くした " なんて言えなくなる。


玲於の悲しむ顔は見たくない。
絶対、知られちゃいけない…
行こって玲於が電車乗り込む。


私も、一緒に乗り込む。
私の心臓はバクバクと大きく動く。


なくしちゃった…?


そんなの嫌。



「左側のドアが閉まります…」



アナウンスが鳴ったと共に閉じそうになりそうなドア。
その時、玲於の手からスルッと抜けて


電車から出た。
玲於
ちょっ!
玲於がドアにくっついて私に何か言ってる。


ごめん…


私、このままじゃ帰れないから。


" 大事にしろよ ~ 。 "


そう言った玲於の言葉がぐるぐる頭を巡る。
あなた

ごめん…

探さなきゃ。
大きな音を立てて走り出す電車を見送って


少なくなった人のホームの中を腰を低くして探す。
あなた

どこだ…?

どんなけ探してもなかなか見つからない。
意外と小さかった。


紐は青色でクラゲ自体は水色。


ホームの地面は黒く、パッと見ただけ


すぐ見つけやすい色なのに。


なかなか、見つけることが出来ない。
あなた

お願い…出てきてよ。

ずっと地面を探していた私の目の前にゴミ箱。
あなた

もしかして…

私はあわててゴミ箱を漁る。


少しいるホームの人は私を見てどう思ってるんだろう。


いつもなら気になって仕方ないと思うが


今日は全然気にならない。


探さなきゃ…!
ホームに散らばるゴミは


次々に入ってくる電車の風で舞う。
通りすがりの人
この子なにやってんの…?
通りすがりの人
え、知らないって。
通りすがりの人
ゴミ荒らして何してんだろ…
わぁ…痛い。


みんなの視線が痛い。
無い…


ゴミ箱にも無い。


なら、どこにあるの
探す気力も抜けてゴミをゴミ箱に戻す。
あなた

…どこにあるのっ。

視界がグラグラ揺れて滲む。
ゴミを戻し終えて携帯を見る。


ネットで電車の時刻表を確認。


…10分後。
携帯をしまってホームに並ぶ。
ホームに通る風が私の前髪をなびかせた。


さっきまで着いていたキーホルダー。


今はない。


その面影を残してどこかへ─────────


プルプルプルプル…



携帯が鳴った。


取り出して画面を見ると
あなた

玲於…!

きっと、怒ってる。


何してんの。ってカンカンだ。


怒られる。


もう、呆れられて今日で終わりかもしれない。


ずっと鳴り響く電話のコールが強く私に


訴えているようで怖かった。


その覚悟で画面をスクロール。
あなた

もしも…

玲於
あなたさんっ!?
あなた

ごめん…

玲於
どこにいんの…
あなた

今…

駅のホーム。


そう言ったら 今から行く とか言いそう。
あなた

駅前のカフェだよ!
友達にさっき誘われて今いるの。

嘘ついた。


つきなくもない嘘。


なのに…玲於は


















玲於
なら、なんでそんな泣きそうな声なの。


















なんで…?
あなた

別に…泣いてなんかないよ?

そう言われるとまた、目に涙が溜まる。


もう、泣きたくない…


零れる涙を手で拭き取った。





















玲於
あれ…今俺の目の前にあなたさんに
似てる人がいるんだけど…幻覚かな。
あなた

えぇ?

玲於
あなたさんのこと好きすぎて
幻覚見たかもしれない。
あなた

なにそれっ笑
私は玲於の前には居ないよ。

玲於
なんだろ。
すごい悲しそうにしてる。
あなた

その子、大丈夫かな。

玲於
多分大丈夫じゃないと思う。
そんな…心配してるんだ。

















玲於
大丈夫ですか?
そう後ろから私に話しかける人が─────────
あなた

はぃ…大丈…

私と今、電話してる…人が…
玲於
大丈夫じゃないみたい。
あなた

玲於…

ニコニコ笑うその笑顔は今の私にとってすごく辛い。


汗をいっぱいかいて私に笑いかけてくる。
玲於
何泣いてんの。
あなた

ううん…

玲於
…これか。
玲於の手には私の探し求めていた…クラゲ…の…
あなた

なっ…なんで…?

玲於
だろ ~ な。
にしし と、笑う。
あなた

ごめん…ほんとにごめんなさい…

涙が止まらない。


よかった。


見つかった…
玲於
大丈夫だって。
私の手にクラゲのキーホルダーが乗る。
あなた

なんで…持ってたの?

玲於
なんでだろ、勝手にカバンに入ってた。
なんて、嘘をつく玲於。


なら、なんでそんなに手、怪我してるの?
赤くなって所々血が滲んでいる。
あなた

…ありがとう。

よかった。
玲於
大事にしろよ?
あなた

うん…離さない。

私の頭をガシッと掴んで揺らした。


それから、ゆっくり手を繋いだ。
玲於
もっと、俺を頼っていいから。
そうボソッと呟いた玲於の声はホームに


入ってくる電車の音で徐々に消された。
あなた

うん…

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