ちょっと息を切らして戻ってきた吉田くん。
無言で教科書を準備し出す。
前の教卓には片寄先生。
数学だ。
カチッと眼鏡をかけ直す姿にほぼの女子はイチコロ。
私は…うんって感じだけど。
膝に手を置いて俯き加減で言った。
離れている机をお互いくっつけて教科書を
共有し合えるようにする。
何気に初めてかもしれない。
高校入って人に教科書を貸したこと。
机をくっつけて見せ合いっこしたこと。
漫画みたいなシチュエーションで動揺する。
たくさん、話しかけてくるのかと思っていた吉田くんは
黙々と先生の言うことをメモして授業を聞いている。
私のノートはと言いますと…
課題と問題が書いてあるだけ。
5問あるのに、2問までしか進んでないし…!
ここ結構難しいから私には──────────
さっきまで静かだった吉田くんが
急に話しかけてきてびっくりした。
サラッと言った吉田くんの言葉にびっくり。
学年上位!?
それって、凄くない?
そう微笑む吉田くん。
顔も良くて頭もいいし運動神経もいいなんてそんな
羨ましすぎる三拍子はあるのですか。
スラスラと私が言葉にできない単語達を
口にして話していく。
そのおかげで、今まで解けなかった問題も解けた。
と言うとペンを持ってまたノートに書き出す。
もう、終わってるんじゃないの?
私は自分の問題をもう一度見直していると
肩を叩かれた。
吉田くんでジェスチャーで私に 手出して って
訴えてくる。
左手を差し出すと上に置かれたのは一枚の紙。
開くと 090…と携帯番号が書かれていた。
一気に吉田くん…あ、智也くんと仲良くなった気がする。
そして、放課後。
玲於の待つ玄関へと急いだ。
ポケットからあったまったカイロを出して
玲於に見せる。
あ、デートってどこ行くんだろ。
そう言うと玲於は振り向いて
玲於、ゲーセンとかめっちゃ似合いそう。
ちょっと写真に収めたい気もする。
行きましょ!って私の手を繋いで歩く。
2回目。
こうやって繋いで帰るのは。
玲於の手は丸くてクリームパンみたい。
私がキュッてするとキュッて返してくる。
それがちょっとおもしくて何度もやった。
すると、ちょっと私をチラ見して優しい睨み。
その後に前向いてニヤニヤしている。
余程久しぶりなゲーセンなのかちょっと興奮気味。
玲於はキョロキョロし出した。
私が指さしたのは
黄色い髪の毛が特徴的で四角い眼鏡をかけた
人の形の人形。
UFOキャッチャーのガラスには メン…?
そんなようなことが書いてあった。
きっと、人気があるんだろうな。
そんな…
私、そんなセンス無いか…!?
結構可愛いって思ったのに…
と言って100円を1枚入れた。
そして、音が鳴りだしてアームがゆっくり動く。
得意気に笑う玲於の顔は小学生にしか見えない。
と思ったら、アームはほんとに取れるのか
心配になる所にいった。
私が声を出す瞬間に玲於はアームを下ろした。
玲於の言葉を信じて動き出すアームを見つめる。
すると、私が選んだ人形は徐々に浮き
と、私の手元にやってきた。
すご…
初めてだ。
間近ですんなり取れる人を見たの…
そう言うと玲於はそっぽを向いて頭をかく。
危険危険 って歩き出す。
そんな変な顔してた…?
…玲於最低…!
そう玲於に言うと驚いた顔で私を見てくる。
そう言ってもなかなか玲於はこたえてくれない。
もう、なんなの。
白い肌はどんどん赤く染っていく。
なんだ…ちょっと恥ずかしいじゃん。
頭を下げてくる。
そういうことじゃないのに…
ん ~ 、あ!
プリ撮りたい。
そっか、玲於も彼女いた事あるよね。
そりゃ、そうじゃん。
私が初めてなんかじゃない。
玲於から貰った人形を右手に抱えて
玲於の手と私の手を絡めた。
私から。
プリ機に入るとちょっと緊張…
二人っきりとかはなとしか撮ったことない…
怖い って。
それ、めっちゃいい事だから。
それを知らないから言えることだよね。
忠告忠告…
画面に出ている盛れ度を設定しながら言った。
私の胸は高鳴る。
サラって言えちゃうんだ…
なんて冗談半分で言ったのに
笑顔で私に言った。
いわれる身にもなってよ!
って言うと
ただ、恥ずかしいだけ。
私ほんとそういうの経験少ないから慣れない。
恥ずかしい。
その一言に尽きる。
玲於は私から目を離さず私を見つめてくる。
う ~ 。
その目反則。
私は緊張する心を抑えて玲於の目を見つめる。
それに玲於も私の目を見つめて待つ。
その途端、私の視界は暗くなって暖かい温もりに包まれた。
パシャ…
丁度プリクラのシャッターが鳴った。
玲於の胸の中にいるのは把握。
何故か今日は玲於にドキドキさせられっぱ。
私から離れた玲於の顔は優しい顔。
そんなの…しないように意識する方がおかしいし。
意識できないわけがない。
白い歯を見せて目を細める笑顔は私には毒なのかもしれない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。