あの時、俺は伝えるべきだった言葉。
それは
" 話しかけてもいいですか "
その文だった。
無視しても無駄。
逆にダメだと思いそう決心した。
言おうと思った時。
あの先輩。
俺のクラスの女子と付き合っていたからなんとなく
顔はわかった。
その人がなぜ、あなたさんを呼んでいるんだ。
俺がいるべきじゃないと
そう一言残し、保健室を後にした。
歩く度に痛む膝。
けど、それとは逆にあなたさんが触った足の部分の
手の感触は何故か消えないまま。
脳にも皮膚にも鮮明に記憶されていた。
あの暖かい手。
細長くて綺麗な指。
折れちゃうんじゃないかってぐらい細くて綺麗。
その手の形は今でも目に焼き付いている。
気持ち悪いのは重々承知。
けど…やっぱ覚えてしまうんだ。
好きな人のことは。
あれから、ずっとあなたさんのことは
考えないようにしていた。
けど、そう意識する度に逆に思い出してしまい
忘れるところか忘れられなくなっていた。
気づけば授業にも出ず、屋上に来ていた。
照りつける太陽は容赦なく俺に突き刺さる。
暑いの意外といけるなんて思っていたのに
無理だわ。
暑い。
陽の当たらない陰に来て座った。
スースーと通り抜ける風が居心地がいい。
こんなこと考えたくない。
自分で自分を追い込んでこ落ち込んでるだけ。
床に寝転んで空を見上げる。
青いなぁ。
大きい。
俺の悩みなんてちっぽけな悩み。
急なそらの登場で驚いた。
今は、誰にも俺の悩みを聞いて欲しいなんて思ってない。
そっとしておいて欲しい。
ニヤニヤするそら。
はぁ、うぜぇ笑
寝返りを打ってそらの顔が見えないようにした。
それ以上、俺に入ってくんな。
なのに、そらは
そう言って、俺の寝返りを打った前に来た。
ぴょんって。
…お前、スカートは気にしないのか。
見えてしまいそうで怖かった。
上を向き直して空を見た。
俺の横で両足を畳んで、両手で包んでいる。
こいつ、人並み以上に可愛いと思うのに
俺ばっかに構って…
急にどストレートな言葉を言い放つそら。
ビックリして、ドキドキしてしまう。
独り言のように呟いたそら。
透き通るような肌の白さ、切れた鼻筋。
横顔美人ってこういうことか。
そう俺を覗き込むように笑顔で言うそらの顔は
今まで以上に可愛く見えて俺の心臓を動かした。
このままだと、なんかやばい気がして
座り込むそらを起き上がらせるため、手を貸す。
そう言いつつも、俺の手を握って立ち上がる。
屋上のドアノブを握った時。
背中がカァっと熱が上がった気がした。
今の俺にはハードルは高いし…
馴れない言葉をずっと投げかけられて
心もズタズタ。
早く、抜け出したい。
抜け出して顔を冷ましたい。
てか、俺…めっちゃあいつにドキドキさせられてんの。
まじ、だせぇ…
ぴょんって俺の横に飛んできたそら。
話を振ってくるけど何故か返せないまま。
廊下を歩いていたらチャイムがなって1時間目が終了した。
国語…
俺の担任。
この前、あなたさんノート運びに来たよなぁ。
そん時も、あの先輩と一緒だった…
もしや…付き合ってんのか。
そう考えた時。
背中はカァっと冷えた。
さっきとは違う。
そうえば、あなたさんは得意だったような。
そらが聞いてないことも話していた。
やべぇ、めっちゃ覚えてるし…
図書館で勉強した時に撮った写真
まだ、フォルダに入っている。
消さなきゃなぁ
なんて、思ってるけどなかなか消せない。
強いていえばカバンのキーホルダーも外したい。
てか、最初は俺がつけてたんだから
外す必要はないんだけど…
そらの言葉と共に前を見るとあなたさんと…
あの男。
確かにイケメン。
あなたさんとも横で並んでいて釣り合ってる。
身長差もちょうどいい。
俺となんか並んじゃ恥ずかしい。
はぁ…見た目からあの先輩に負けてんだ。
ほら、行こ。
って俺の手を握るそらに、着いて教室に戻る。
そらに助けられてばっかだ…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。