智也くんの口からそんな言葉が出てくるとは
思ってもいなかった。
お茶を持って保健室から出ていこうとした時。
足が止まった。
" 佐野くん… "
なんで…玲於の名前を出すの。
智也くんの方を見て私の思いを打ち明けようとした。
けど、喉に何かがつっかえて痛い。
そう言うと私の手を握る。
こうやって、智也くんに甘えちゃうから
智也くんも勘違いしてしまう。
ほんとは好きじゃないのに好きって言って
私を励まそうとしてるんだよ。
そんなの…両方得しない。
だから、私は智也くんの手を離した。
お茶を強く握る。
さっきまで冷たく、水滴が着いていたのに
いつの間にか無くなっていた。
ぬるい…
保健室から出た。
私を呼ぶ声。
誕生日は、知らないし…
血液型も知らない…
得意な教科、嫌いな教科も知らない…
そうだ。
私達は友達になりたて。
私のところまで走ってきてぴょんぴょん跳ねる。
甘いなぁ。
玲於とは違うなぁ。
しょっぱくない。
砂糖。
って、玲於と比べてしまうのはもう仕方ない。
気にしない方が楽かもしれない。
智也くんと教室に戻ると
亜嵐とはなが二人で待っていてくれて
心配そうな顔で私を見ていた。
横を見ると優しい眼差しで亜嵐とはなを見ていた。
私の視線に気づいた智也くんは私を、見て
ニコッとしてきた。
亜嵐とはなは安心したのか
" よかった ~ "
って二人して笑っていた。
智也くんだけにしか聞こえない声で呟く。
ポリポリと頭をかく。
照れてんのか!
そう言って、私の頭をくしゃくしゃっと
して、自分の席に着いた。
ちょっと…
この仕草って女子はキュンキュンするはずだよね。
私、全くしなくて
逆に…ちょっとイライラしたかもしれない。
髪の毛。
ひとつで結ぶ髪の毛の根元が浮き出ている。
笑ってんじゃないよ!
ゴムを外して結び直そうとすると
私の持つゴムを取った。
知らなかった。
つい、智也くんのことだから夢なんてないと
思ってきた。
ひとつ知れた、智也くんの夢。
そう言うと私を廊下に向かせた。
見上げるとあの音楽室。
覗いてたりして…なんて期待外れな思いを持っている。
目を凝らして見るとやっぱ誰もいない。
期待する分だけ傷つくだけなのに。
傷つく…?
どうして?
自分の思ったことに疑問を抱く。
そんな時、智也くんの手が私の髪の毛に絡まる。
髪の毛を手ぐしてといていく。
人に頭を触られることがなくちょっと気持ちい。
自然に目が積むって言ってしまう…なぁ…
それだけ私の後ろで呟くともう話さなかった。
私の目はバッチリあいてしまった。
ゆっくりゆっくり、髪をといて頭を撫でられる。
本物の美容師のような手つき。
しっかり、練習してるのかな。
智也くんの方を見ると
" うん、かわいい "
と、笑ってくれた。
頭を触ってみると
綺麗に整えてあって…凄い。
智也くんは机に頭を乗せてゴロゴロしている。
智也くんの耳は赤くなっていて
横から見える頬は微かに赤くなっているのが分かった。
私の目の前で手を合わせて拝んでる。
私は、神様じゃないよ。
って言うと
女神だもん。
って言う。
はぁ、慣れてんなぁ。
智也くんがそういうことを言う度に
他の子にもそうやって言ってきたんだろうな。
っていう自分の解釈が出てきてしまう。
ほんとはダメなんだろうけど…
前を見ると先生が来ていて黒板に今日の日にちを
書いていた。
ノートの端にそう記した字。
そう目を合わされて言われた私の心を
ちょっとだけ揺らしたのは秘密。
智也くんは数学が得意…っと。
この前、英語聞いてきたから英語は苦手なのかな。
覚えてなさそうな様子。
まぁ、私が覚えているのがおかしいのか。
そっか。
なんか嬉しい
ってシャーペンをぎゅっと握りしめる智也くん。
今まで見たことの無い智也くんだった。
こんなピュアな雰囲気もあるんだなって。
友達の階段登れたかな。
でも、まだ3つだ。
これから知ればいいね。
はい、授業始めるよ ~ 。と
先生の号令とともに私の苦手な数学が始まった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!