第34話

友達への階段
1,967
2018/12/15 13:25
あなた

こんな時に…嘘なんかやめてくれないかな…

智也くんの口からそんな言葉が出てくるとは


思ってもいなかった。
吉田智也
嘘じゃないんだけどな。
あなた

だとしても、ごめんなさい。

吉田智也
佐野くん引きずってんの?
お茶を持って保健室から出ていこうとした時。
足が止まった。


" 佐野くん… "


なんで…玲於の名前を出すの。
あなた

別に…引きずってなんか…

吉田智也
泣いてたじゃん。
あなた

それはっ…!

智也くんの方を見て私の思いを打ち明けようとした。


けど、喉に何かがつっかえて痛い。
あなた

っ…

吉田智也
ごめん!ごめん!
無理しないでいいから。
そう言うと私の手を握る。
こうやって、智也くんに甘えちゃうから


智也くんも勘違いしてしまう。


ほんとは好きじゃないのに好きって言って


私を励まそうとしてるんだよ。


そんなの…両方得しない。
だから、私は智也くんの手を離した。
あなた

ごめん…

お茶を強く握る。


さっきまで冷たく、水滴が着いていたのに


いつの間にか無くなっていた。


ぬるい…
保健室から出た。
吉田智也
あなたちゃん!
私を呼ぶ声。
吉田智也
気持ちは俺、本気だから。
あなた

だから、ごめんって…

吉田智也
俺達、今何も知らないよ。
あなた

え?

吉田智也
ただの、顔見知りより深い関係なだけ。
だから友達レベル0なわけ。
あなた

そ…うなの…?

吉田智也
そう。
だって、俺らお互いの何を知ってる?
あなた

名前と…

誕生日は、知らないし…


血液型も知らない…


得意な教科、嫌いな教科も知らない…
吉田智也
だから、そこから知っていきたいんだ。
あなた

私の…こと…?

吉田智也
そう、あなたちゃんのこと。
そうだ。


私達は友達になりたて。
あなた

わかった…

吉田智也
あなたちゃんも俺の事知って欲しい。
あなた

智也くんのこと…

吉田智也
いろんなこと。
あなた

うん、わかった。

吉田智也
よしっ、なら教室戻ろう!
私のところまで走ってきてぴょんぴょん跳ねる。


甘いなぁ。


玲於とは違うなぁ。


しょっぱくない。


砂糖。
って、玲於と比べてしまうのはもう仕方ない。


気にしない方が楽かもしれない。
吉田智也
明日行ける??
あなた

大丈夫、いけるよ。

吉田智也
なら、良かった。
智也くんと教室に戻ると


亜嵐とはなが二人で待っていてくれて


心配そうな顔で私を見ていた。
はな
あなた!大丈夫!?
亜嵐
おいおい、大丈夫なのか?
あなた

うん、大丈夫だよ。
ごめんね、心配かけて。

はな
全然、ほんとこっちがごめんだよ。
あんなに私…走らせちゃった…?
あなた

ううん!?はなのせいじゃないよ。
私が自分の体力知らず走ったから…だよ。

はな
ほんとごめん ~!
あなた

いいって!

亜嵐
頭、大丈夫?
あなた

あ、うん…大丈夫!

横を見ると優しい眼差しで亜嵐とはなを見ていた。


私の視線に気づいた智也くんは私を、見て


ニコッとしてきた。


亜嵐とはなは安心したのか


" よかった ~ "


って二人して笑っていた。
あなた

ありがとね、智也くん。

智也くんだけにしか聞こえない声で呟く。
吉田智也
なになに、素直になっちゃって…
ポリポリと頭をかく。


照れてんのか!
あなた

お礼を言っただけなのに?

吉田智也
ううん…嬉しい。
これからもいっぱい人を頼るんだよ。
そう言って、私の頭をくしゃくしゃっと


して、自分の席に着いた。


ちょっと…


この仕草って女子はキュンキュンするはずだよね。
私、全くしなくて


逆に…ちょっとイライラしたかもしれない。
あなた

ねぇ、髪の毛乱れたんだけど。

髪の毛。


ひとつで結ぶ髪の毛の根元が浮き出ている。
吉田智也
え…あ、笑
笑ってんじゃないよ!
あなた

も…私結ぶの苦手なんだからさ…

ゴムを外して結び直そうとすると
吉田智也
貸して…
あなた

え?

私の持つゴムを取った。
あなた

ちょっと…!

吉田智也
俺、美容師目指してんだ ~ 。
あなた

そうなの?

吉田智也
そう、だから髪の毛とかには意外と自信ある。
知らなかった。


つい、智也くんのことだから夢なんてないと


思ってきた。


ひとつ知れた、智也くんの夢。
あなた

頑張ってね。

吉田智也
さんきゅ。一番のお客さんはあなたちゃんだね。
あなた

それはいいよ ~ 。
もっと他に大切な人いるじゃん?

そう言うと私を廊下に向かせた。


見上げるとあの音楽室。


覗いてたりして…なんて期待外れな思いを持っている。


目を凝らして見るとやっぱ誰もいない。


期待する分だけ傷つくだけなのに。


傷つく…?


どうして?


自分の思ったことに疑問を抱く。


そんな時、智也くんの手が私の髪の毛に絡まる。


髪の毛を手ぐしてといていく。


人に頭を触られることがなくちょっと気持ちい。


自然に目が積むって言ってしまう…なぁ…

























吉田智也
俺は、あなたちゃんが大切だから。






















それだけ私の後ろで呟くともう話さなかった。
私の目はバッチリあいてしまった。
ゆっくりゆっくり、髪をといて頭を撫でられる。


本物の美容師のような手つき。
しっかり、練習してるのかな。
吉田智也
よし!出来た!
あなた

お、ありがと!

智也くんの方を見ると


" うん、かわいい "


と、笑ってくれた。
吉田智也
やっぱ、俺のおかげだね。
あなた

そうだね。笑

頭を触ってみると


綺麗に整えてあって…凄い。
吉田智也
気になる?
あなた

ううん、上手いなぁって。

吉田智也
なに、褒められてる?俺。
あなた

褒めてるよ。

吉田智也
わぁ…
智也くんは机に頭を乗せてゴロゴロしている。
あなた

なに?

吉田智也
過去一かも…
褒められてこんな嬉しいの。
智也くんの耳は赤くなっていて


横から見える頬は微かに赤くなっているのが分かった。
あなた

褒めるなんていつでもしてあげるけど。

吉田智也
え、ぜひ!
あなた

っなに笑

私の目の前で手を合わせて拝んでる。


私は、神様じゃないよ。


って言うと


女神だもん。


って言う。


はぁ、慣れてんなぁ。
智也くんがそういうことを言う度に


他の子にもそうやって言ってきたんだろうな。


っていう自分の解釈が出てきてしまう。


ほんとはダメなんだろうけど…
吉田智也
はい、数学だよ。
前を見ると先生が来ていて黒板に今日の日にちを


書いていた。
あなた

え ~ 、やだなぁ。

吉田智也
嫌いなの?
あなた

嫌い。

吉田智也
あなたちゃんは数学が嫌い…っと。
ノートの端にそう記した字。
あなた

智也くんは好きなの?数学。

吉田智也
好きだよ。
そう目を合わされて言われた私の心を


ちょっとだけ揺らしたのは秘密。
智也くんは数学が得意…っと。


この前、英語聞いてきたから英語は苦手なのかな。
あなた

もしや、英語苦手?

吉田智也
そう!なんでわかったの?
あなた

前聞いてきたから…そうかな?って。

吉田智也
そうだっけ?
覚えてなさそうな様子。


まぁ、私が覚えているのがおかしいのか。


そっか。
吉田智也
俺との会話を覚えていてくれて嬉しいわ。
あなた

言うと思った。

吉田智也
見破られてた!笑
あなた

智也くんは数学が得意で、英語が苦手。

吉田智也
あなたちゃんは数学が苦手で英語が得意。
あなた

そうそう。

なんか嬉しい


ってシャーペンをぎゅっと握りしめる智也くん。


今まで見たことの無い智也くんだった。


こんなピュアな雰囲気もあるんだなって。
友達の階段登れたかな。


でも、まだ3つだ。


これから知ればいいね。
あなた

数学教えてね。

吉田智也
もちろん!なら、英語頼む。
あなた

は ~ い。

はい、授業始めるよ ~ 。と


先生の号令とともに私の苦手な数学が始まった。

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