奈緒「大丈夫!大丈夫!!ただのお神籤でしょ。そんなに落ち込まない!」
お神籤の結果にムスッとする私を少しでも元気付けようと奈緒が気を遣ってだろう、明るく振る舞っている
あなた「……お神籤って神様からのメッセージでしょ?ちょっと不吉なメッセージだったよ」
____________先行き暗く、見通せない。
さっきのお神籤に書かれていた言葉が頭の中に蘇る
奈緒「まぁまぁ、食べて食べて……」
初詣を終えた私達は、駅前のファーストフード店で向かい合って座っている
元旦からファーストフード?とも思ったけれど……
取り敢えず2人でお喋りできる場所を探したその結果、普段から馴染みのあるこの場所に辿り着いたのだ
店内は半分ほどの席が埋まっている。BGMが僅かに聴こえる程度に楽しそうな話し声があちらこちらから聞こえてくる
あなた「で、奈緒は?何て書いてあったの?」
奈緒「……っとね。"心機一転すれば吉"だって」
「心機一転…」と奈緒は小さな声で繰り返す。その表情にずっと気になっていた事が口を突いて出てきた
あなた「ねぇ、奈緒はさ……スガくんは、ただのファンなんだよね?」
奈緒「えっ…いきなりどうしたの?」
鳩が豆鉄砲を喰らったように、まん丸な目をして私を見返してくる
あなた「じゃあさ……"付き合いたい"の好きな人はいないの?」
奈緒「…だから、いきなりどうしたの?」
フッ…と笑って口元を緩ませ、残っていたポテト数本を口へ運ぶ
あなた「奈緒美人だし、モテるじゃん。私が知ってるだけでも、この3年間で20人以上は告白してきてるでしょ?でも誰とも付き合わないし……奈緒の中に特別な人がいるのかな?って思ってたんだけど。違うの?」
奈緒「ん〜…。だと良いんだけどね。違うね。"付き合いたい"の好きな人が現れていないだけだよ」
視線を落として伏し目がちになりながら、その綺麗な指先でストローを弄ぶ
あなた「でもさ、奈緒____________…」
奈緒「あ、ゴメン。私そろそろ帰らなきゃ」
私の言葉を遮るように、奈緒が口を開き「ゴメン」と顔の前で手を合わせる
あなた「えっ…あ、ちょっと奈緒…?」
戸惑う私を横目に、奈緒はトレーを持ち上げゴミ箱へ向かう
奈緒「午後、お婆ちゃん家に行くって言われてたの忘れてた」
トレーを片付け、振り返りながらにっこりと笑う
奈緒「本当、ゴメンね。急に」
あなた「ううん、大丈夫。じゃあ、次は春高でね!」
奈緒「うん!バレー部の応援だけど、あなたと一緒に旅行するみたいで楽しみ。じゃあね!」
別れ道である交差点で私に手を振り信号を渡りだした奈緒を見送り、私も自宅へ向かって歩き出す
歩きながら、スマホを取り出して大地に電話をかける
「プルルルルル…プルルルルル…______」
あなた「あ、大地。今何してる?」
澤村〈おー、あなた。今?あ〜…体育館が乗っ取られてないか確認……じゃなくて、散歩〉
散歩……?
予想外の返答に、足を止めて首を傾げる。少し考えて、「散歩」という事は1人だなと想像する
あなた「ね、今から会いに行ってもいい?大地、今どこにいるの?」
澤村「あー…今は____________、」
私達は、大地の自宅近くの公園で待ち合わせをした
澤村「お〜い、あなた。こっちこっち」
公園内の自動販売機のすぐ横で、柵に腰をかけて大地が手を振って私を呼ぶ
あなた「あけましておめでとう」
大地の隣に立ち、軽く頭を下げる
澤村「あ、おめでとう。ってか、日付が変わった瞬間に電話で挨拶したじゃんか」
あなた「そうだけど。改めて…ね」
私も大地と同じように柵に腰をかける。見ると、大地の手にはコーヒー缶が握られている
あなた「寒いのに待たせてゴメンね」
澤村「あ、これ?違う違う。さっきまで友達と一緒だったんだ。中学時代、同じバレー部だったヤツ。あなたも何か飲む?」
あなた「ううん、私は大丈夫。ちょっと大地の顔が見たくなっただけ」
澤村「ん?昨日も一緒にいたのに、そんな事言われたら…嬉しいな」
頬を赤く染めながら歯を出して笑い、私に向けて手を差し出してくる
差し出されたその大きな手を握る
あなた「いや……。昨日の大地、難しい顔してたから。さっきの初詣も……やっぱり緊張してるのかな?って気になっちゃって」
澤村「えっ……そう?っていうか、見られてたのか?!なんだ、声かけてくれたらよかったのに。そっか、そっか〜。あー…うん。そうだな。緊張…だな
いや〜…初夢でも、変な夢見ちゃってさ」
空を見上げながら「ハハハ…」と笑う
あなた「……夢?」
澤村「あ〜…。コートがバスケ部に乗っ取られる夢……」
緊張からか、繋いだ手にキュッと力が入る
あなた「ね、大地…」
少し勢いをつけて、かけていた柵から腰を離し立ち上がる
澤村「……あなた?」
柵に腰をかけたままの大地の前に立つ
普段とは違って、大地の目線が私より少し低い位置にある。頬に両手を添えて、その高さからこちらを見上げる目を__________________その瞳の中に自分の姿が写るのが分かるくらいに、しっかり見据える
あなた「大丈夫だよ、大地。私だけじゃなくて、皆が応援してる。皆が見てるから!
コートのこっち側だけじゃなくて私達応援席も、もれなく皆が味方だよ!!」
最後まで言い切って、自分の腕の中にギュッと大地を包み込む。その大きな背中に手を回す
澤村「そうだよなぁ。夢まで見て、俺ビビリすぎだよなー!」
私の背中に大地の手が回る。私の肩に埋めていたその顔を上げて空を見上げる
澤村「一人なワケあるか。なっ!」
柵から腰を上げ立ち上がり、私の頭にポンと手を乗せる
澤村「よっしゃ。春高!全国だ!!全国をビビらせてやる!!」
私の頭に乗せた手をグッと握り、空へ向かって突き上げる
その表情は昨日とは違って、いつもの頼もしい主将の顔だった
そんな大地と一緒に私も笑って拳を空へ向かって突き上げる
あなた「ね、緊張が解ける"おまじない"してあげる」
「耳を貸して」と内緒話をする時の仕草で、口の横に手を当てて、反対の手で顔を近づけるように手招きをする
澤村「ん?」
大地は素直に私に右耳を向けて顔を近付ける
そんな大地に向かって
__________________「…チュッ//」
頬にキスをした
澤村「なっ、……あなた!?」
耳まで一気に赤く染まる大地に笑顔を向ける
あなた「緊張、解けたでしょ?」
澤村「あぁ、そうだな。でも……」
驚いた顔をしたのは一瞬で…次の瞬間には、悪戯っ子のようなニヤリとした笑顔を向けてくる
腕を掴まれ、引き寄せられる。頬に大地の手が触れる
__________________「「チュッ///」」
今度は2人の唇が重なった
もう一度顔が赤くなった大地の腕の中に、今度は私が包まれた
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!