奈緒 side
『ウ"____________、ウ"____________、』
ドライヤーで髪を乾かし終わると、スマホの振動音に気が付いた
慌てて画面を確認する
あれ?私じゃない……。あ、あなたのスマホだ……
画面が上を向いたまま充電中のあなたのスマホを、悪いと思いながら覗く
……表示されている名前は澤村くん
あぁ……分かってはいるけど、今更ながら胸の奥がズキッとする
未練たらしいと自分でも何度も思った
でも……あの笑顔を見る度に、あぁ好きだなぁって思ってしまう
『ウ"____________、ウ"____________、』
今度は確かに私のスマホが振動した
画面を確認する。あ、スガくんだ……
奈緒「もしもし、」
菅原〈あ、早乙女〉
奈緒「どうしたの?」
菅原〈いや、用事ってわけじゃないんだけどな……あ、早乙女も応援来てくれるんだべ?もう東京着いてる?」
奈「あ、うん。今あなたのお祖父さんのお家。何かね〜豪邸なんだよ」
菅原〈へぇ〜…すげーな〉
スガくんは「用事はないんだけど…」って言いながら時々電話をしてきてくれる
スガくんからの電話がくるようになったのは、高校2年の修学旅行から……
修学旅行の飛行機であなたとスガくんが席を交換した。スガくんファンだと宣言していた私の隣にスガくんが座り、あなたと澤村くんが隣同士で座った
爽やかな笑顔とともに私の隣に「よろしくなっ!」と座り込んだスガくん
帰りの飛行機ももちろん同じ座席なわけで、スガくんは旅の疲れなんて何処かに置いてきたかのように再び私の隣に爽やかな笑顔で座った
飛行機がもうすぐ仙台空港に着陸する。そんな時だ。スガくんの口から全く予想していなかった言葉が出てきた
菅原「早乙女ってさ……大地の事、好きだべ?」
私にしか聞こえない小さな声で
それでも、私を激しく動揺させるには充分だった
奈緒「何?急に……」
必死に冷静を装ったけど、自分でも動揺を隠せていない事は分かった
飛行機が離着陸する時の高揚とは違うドキドキ。心臓の鼓動が激しく打ちつけているのを感じる。顔が……頬が引き攣る
今まで誰にも気付かれないように必死に隠してきたのに……
菅原「あ、ごめんな。だからどうこうってわけじゃねぇべ。でも……そっか、そっかー。そうだよなー」
よく分からないけど、スガくんは何かに1人で納得している
その横顔を見つめる
奈緒「あのね、スガくん……」
菅原「あ、分かってる。大地と藤原……はもちろん、他の誰にも言わないべ」
それ以来、時々電話をしてきてくれる
多分……私を気にして
菅原〈いや、あのさ……大地が「監督者会議が終わったら藤原に電話する」って言ってて。自分の隣で藤原と大地が電話してたら……ちょっとアレかなって〉
ほら……やっぱり
奈緒「フフフ……やっぱりスガくんは優しいね」
菅原〈……誰にでもってわけじゃねぇべ〉
奈緒「分かってる。私が「スガくんファン」って宣言してるからでしょ?」
菅原〈……あ〜…、まぁ、そういう事で……
あれ…大地?電話しに行ったんじゃないの?
あ〜、あなた繋がらなかった〉
電話の向こうからスガくんと澤村くんのやりとりが聞こえてくる
奈緒「あ〜。あなたね、今お風呂だよ」
菅原〈いや、それ俺に言われても……
ほら、大地は俺と早乙女が電話してる事知らないから〉
最後はモゴモゴと口籠る
コンコンコン……
あなた「奈緒、ドライヤー終わった?あ、ごめん。電話中?」
お風呂から戻って来たあなたにドライヤーを手渡す
あなたはドライヤーとスマホを手に取ると部屋を出て行った。多分、電話中の私に気を使ってくれたんだろう
暫くスガくんと試合前にどうやったら緊張が解れるのか。とか、お互い今までの試合中にやらかしたミスがどんなもの。とか、そんな話をして電話を切った
ベッドに入り、まだ戻らないあなたを待ちながらいつの間にか私は睡魔に襲われていた
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!