研磨 side
俺とあなたは家が近所という事と母親同士が仲が良いという理由で、物心がついた時から当たり前のように一緒に過ごしていた
確か……俺が7歳の時、隣にクロ達家族が引っ越して来た
それで、クロがたまに一人になる時ウチに来たりして……
それからは、俺とクロとあなたと三人で過ごすのが当たり前になっていった
____________あれは…
あなたとクロが四年生になって暫くした頃、俺は気付いたんだ。あなたが俺の家に来るたびに
「クロが____________」
「クロが____________」
ってクロの話ばっかりするようになった事に
研磨「(そっか…あなたとクロは同じクラスになったんだっけ……)」
最初はその理由にはあんまり興味が無かった
あなたとクロは五年生になっても同じクラスになった。あなたは、それを嬉しそうに俺に話してきたんだ
それなのに………
暫くしたら、あなたはクロの話をしなくなった
研磨「(珍しく喧嘩でもしたのかな?
あなたとクロの事だから、すぐに仲直りするだろう)」
その時は、あんまり気にしていなかったけど…後から考えれば、俺の家でも不自然なくらいあなたとクロが顔を合わせることがなくなっていたんだ
少し前までは、あなたがウチに来る時はクロも一緒にいるのが当たり前だったのに____________
二人の様子がおかしい……
その事に気付いた俺はあなたの様子が気になって、あなたの家へ行った
おばさんに「あなたは自分の部屋にいるから上がっていいわよ」って言われて、一人で階段を登ってあなたの部屋の前まで行った時……
あなたが一人で泣いている事に気付いた
研磨「(理由はクロだ……)」
咄嗟にそう思った。その日は、俺はそのまま自分の部屋に戻った
次の日、クロがウチへ遊びに来た
あなたがピアノのレッスンの日で、遊びには来ない日だったから……
「あなたと喧嘩でもした?」って、ゲームをしながら聞いてみた
クロの返事は「別に…何もねぇよ」って一言だけ。でも、明らかに不自然だったから……
____________あなたが泣いていた理由はやっぱりクロだ。
俺は確信した。その瞬間
研磨「(何で、何で……あなたを泣かせるような事をしたの?)」
クロにイライラした…
その後も何度かあなたが一人で泣いている姿を目にして…その度にクロにイライラして……
胸の中にドス黒いモヤモヤとした感情を持つようになって
研磨「(あなたはクロの事なんか無視すれば良いのに…)」
そう思った時…
俺は、クロに対して嫉妬しているって気付いたんだ…
クロに対するモヤモヤとしたこのドス黒い気持ち。それが嫉妬だ____________。と気付いた時、俺は自分のあなたへの特別な感情を自覚するのと同時にあなたもクロに対して特別な感情を持っていた事に気付いた
「クロが____________」
「クロが____________」
あれは、ただ単にクラスが一緒になったからだけじゃなくて……
それだけあなたがクロを気にして、クロの事を見ていたって事だ____________
つまり……
俺は、初恋と失恋を同時に知った
でも、だからってクロも大切な幼馴染だから
嫌いになる事は出来なくて…
二人の気持ちに気付いて…二人に仲直りして欲しいと思ったけど、その為にどうしたら良いのかは分からないまま時間だけが過ぎてしまって____________
そのままあなたはアメリカへ引っ越してしまった
あなたと会えなくなって、子供の頃の淡い気持ちもすっかり忘れてしまった頃____________俺は中学生になった
もちろんクロと同じ中学
中学では、なんとなくクロに言われてバレー部に入った
ちょっとバレーが楽しくなり始めた頃、バレー部のクロと同じ学年の先輩が「黒尾に彼女が出来た!隣の中学の娘で美人!」と騒いでいた事があった
その時、俺の頭には一瞬あなたの顔が浮かんだ。でも……
研磨「(あなたとクロは、もう会う事は無いんだ)」
そう思い直してあなたの事は頭から消し去った
それから暫くして、ウチの近所でクロと噂の彼女らしき人を見かけた時____________
俺は一瞬、息が止まる程ビックリしたんだ…
だってその人は
____________とてもあなたに似ていたから
…いや、似ていると思ったのはほんの一瞬。近付いてよく見てみれば、あなたとは違う。でも雰囲気は似ていた
俺はその時、クロの気持ちに気付いた……
いつからかは分からない
何故あなたを泣かせるような事をしたのかも分からない
でも…クロはあなたの事が好きだった。そして今でもあなたが好きだ____________
それは最初は"予感"だったけど、次第に"確信"へと変わって行った
その後も「クロに新しい彼女が出来た」とか「クロが可愛いと言っている娘が、どこの誰だ」そう言う噂を耳にする度、その娘は決まってあなたとどこか雰囲気や仕草が似ていたから____________
ただ……クロがどこまで自分自身の気持ちに気付いていたのかは俺にも分からない
でも、あの烏野と練習試合をした日____________
突然現れたあなたにクロは確実に動揺していた
そして恐らく……
____________いや、確実に。クロの中では何かが動き出している
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!