周りを見れば人、人、人。中には私と同じように浴衣を着ている人もいる。屋台のおじちゃんおばちゃんはかき氷だったり、焼きそばだったり、あんず飴だったりを売っていてどれを買うか迷ってしまう。でも私が1番惹かれたのは…
ヨーヨー釣り。可愛い小さな風船がぷかぷか浮いていて、色とりどりのヨーヨーに胸がワクワクする。
貰った紐のようなものをそっと水につける。やる前から決めていたオレンジ色で少し大きめのヨーヨーを狙う。ヨーヨーの指を通すゴムの部分に紐の金具を引っ掛ける。
『チャプン』
私の紐は切れ、ヨーヨーは落ちて水に少し沈んだかと思うとまた浮き上がってきた。
おばちゃんは私の切れた紐を受け取ると後ろの人に新しい紐を渡す。
ため息が出た。せっかく取ってお母さんに見せようと思ったのに。私はすぐにその場を離れようとした。
(3つ!?)
びっくりして振り返る。
そこにいたのは私と同じくらいの男の子だった。そんな子が自分は1個を取るのにも苦戦したというのにいっきに3つも取ってしまうなんて。余計に悲しさが倍増する。
びっくりした。気づけばその男の子は私の目の前にいて、さっき自分が取ろうしていたオレンジ色のヨーヨーを私に差し出している。
私は喜んで男の子からヨーヨーを受け取った。知らない人から物は貰っちゃだめというけれどこの男の子からなら大丈夫だろうと思う。
男の子は「うん!」というと右手にピンク色のヨーヨー、左手に黄色のヨーヨーを持って遊び始めた。私も同じように手を動かしてみるけどうまくいかない。少し経つと私はお母さんに呼ばれて帰ることになった。男の子はまだここにいるみたいだ。
でもそれから私たちが会うことはなかった。来年もヨーヨー釣りに行ったけど男の子はいなくて、今年はあれから丁度10年経つ年だ。あの時が小学校1年生で今年高校2年生。10年も待つあの男の子は一向に現れる気配がない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。