第4話

[夢]バレンタインデー
1,030
2020/02/13 15:00
※善夢要素若干薄め



「わぁ、雪降ってる!」
藤の花の家で休養中の2月14日の朝、部屋の襖を開けると一面に銀世界が広がっていた。
どおりで寒いわけだ。
すると廊下から「猪突猛進!猪突猛進!!」という声とともに大きな足音が聞こえてくる。
スパァァァン!という気持ちのいい音と共に、廊下側の襖が開かれる。そこには案の定、伊之助くんが目をキラキラさせながら立っていた。
「雪だ!!!子分!雪だぜ!ウリィィィ!!」
足をパタパタさせながら喜ぶ伊之助くん。可愛いなあ。
「珍しいね、ここら辺で雪降るの…朝ごはん食べたら少しだけ雪で遊ぼっか」
伊之助くんのあまりの可愛さに笑みを零しながら、私はそう提案してみると
「よっしゃぁ!雪合戦だァ!!」
と張り切りながら自分の部屋へと戻って行った。

*

朝ごはんが済んで、次の任務が届くまでは藤の花の家にお世話になることが決まり、伊之助くんは「じゃあいっぱい雪で遊べんじゃねぇか!」ととても喜んでいた。
竈門くん、伊之助くん、我妻くんと私は縁側火鉢を焚きながら、雪合戦をしたりかちんこをして遊んだり鎌倉を作ったりして遊んだ。

指が冷えてきたと思い、火鉢のそばの縁側に座る。
「隣いい?」
「あ、我妻くん。どうぞどうぞ」
少し間を空けて、我妻が隣に座る。
「それにしても凄いね、見事な積もりっぷり」
「本当に。寒くてやんなっちゃう」
「我妻くん、さっきまで夢中に遊んでたじゃん」
と笑うと、我妻くんも照れたように笑う。
「……」
「……」
どうしよう、会話が途切れてしまった。
竈門くんと伊之助くんが遊んでいる声が、何故か遠くに感じる。
少しむず痒い沈黙を破ったのは、我妻くんの方だった。
「ねえ、あなた、知ってる?」
「?何を?」
我妻くんは、遊んでいる竈門くん達を見つめながら話を続ける。
「西洋で、今日は“バレンタインデー”っていう日頃感謝している人に贈り物する祭りなんだって。」
「へぇー、我妻くんって物知りなんだね」
なんだよ意外そうな顔して…とムッとした。
あっはっは。
「昔街を歩いてる外国人がそう言ってるのを聞いたんだよ。…それでさ…その…あのさ」
「うん?」
少し顔を赤らめて俯く我妻くん。
なんだろう、と顔を寄せる。
「これ!!俺からの!日頃の感謝!!」
バッと効果音がつきそうな勢いで我妻くんが差し出したのは、小さな可愛らしい紙袋。
「わぁ、ありがとう…いいの?貰っちゃって」
「うん。」
「開けてみていい?」
え゛っ今…?と言うが無視して袋を開封した。
「ハンドクリーム…?」
手のひらにちょこんと収まるような大きさの入れ物。蓋を開けてみると、微かに桃の香りがするハンドクリームが入っていた。
「あなた、いつも鍛錬頑張ってて偉いし強いけどさ。あなたは女の子なんだからもっと身の回りに気使えよ。折角可愛いんだからさ。」
「あ…りがとう…」
最初はバカにされてる?と思ったがド直球な言葉に怒りも萎れてしまう。
可愛いんだからさ。
可愛いんだからさ…。
善逸くんの言葉を胸で 反芻はんすうする。
可愛いって、言われちゃった。
うふふと笑う私を我妻くんが気味悪がるけど気にしない。
「そうだ。私も何か我妻くんに贈り物したいな…あ!ちょっと待ってて!」
首を傾げる我妻くんをよそに、私は自室に戻る。

*

「おまたせ!!はい、これ…貰い物で申し訳ないんだけど…」
和紙の包みを空けて、我妻くんに差し出す。
「これは…」
「シベリアだよ。最近人気が出てきた甘味らしいの。昨日の任務中に出会った方におすそ分けしてもらったんだけど、すっっごく美味しくて!我妻くんも甘味が好きって言ってたから…」
我妻くんはありがとう、と言ってシベリアを一つ取る。
どうだろう、口に合うといいんだけど…
「…!美味しい!何コレ?!ふわふわの生地と餡が最高に合ってるよォ!!」
よかった。口に合ったみたいだ。
「気に入ったなら一緒に食べよう」
「いいのー?!あなたありがとう〜!!」
と言い、嬉しそうに頬張る我妻くん。
きゅう、と胸が締め付けられる。
…なんだろう?

「あー!!!紋逸!あなた!お前ら何食ってんだ!ずりぃぞ!!」
「あ、伊之助くん」
「なんだなんだ?どうしたんだ?」
ずっと遊んでいた2人も私たちの方へ寄って来る。
「昨日頂いたシベリアを食べてたの。2人もどうぞ!」
「いいのか!ありがとう」
「なんだァ?これ」
笑顔で受け取る竈門くん。
不思議そうな顔をして受け取る伊之助くん。
禰豆子ちゃんにも食べてもらいたかったけど…

次のバレンタインデーも、こうして皆で遊んだり、お菓子を食べたり出来たらいいな。

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