※現パロ
※長い
そう決めてからは早かった。
ピアノの猛練習、指揮の振り方、拍子、楽譜の読み方、スコアの見方…
自分の記憶力と聴覚が優れていることにこんなに感謝した日々は今までになかった。
あれからあなたちゃんが同じ大学を目指すことになった、と宇髄先生が教えてくれた。
それを聞いて更にやる気が出る。
諦めるな。今回ばかりは逃げては駄目だ。
そう自分を奮い立たせ、毎日とっぷりと日が暮れるまで練習を続けた。
*
「最近忙しそうだね」
ジュースを飲みながらあなたちゃんにそう話しかけてみる。
あなたちゃんは忙しなく走らせていたペンを止めた。…邪魔しちゃったかな。
忙しいのはお互い様だけど、少し寂しい。
一緒にいる時間は俺がぴったりとくっついてるから変わらないけど、明らかにあなたちゃんの口数が減っていた。
でも仕方ないか。俺も忙しいし、あなたちゃんも忙しい。一緒にいる時間まで絵を描くのは少し寂しいけど、俺はあなたちゃんが絵を描く姿が好きだ。
同じ大学に行くって話はまた後でにしよう。
その時の俺は、そう呑気に考えながらジュースを飲み干していた。
*
「…え?」
「だから、その…別れて欲しいの。」
突然すぎる言葉だった。
次の日の昼休み、いつもの様にパンを食べようとした俺にあなたちゃんはそう言った。
2回聞き返したけど、間違いじゃなかった。
あなたちゃんから鳴り響く、耳を塞ぎたくなるような辛い音。
その中で控えめに鳴る、恋の音。
意味がわからなかった。
でもあなたちゃんは、つっかえながらも説明してくれた。
どうやら俺の幸せのために、という理由で別れたいらしい。
馬鹿。馬鹿じゃないのあなたちゃん。
俺はあなたちゃんがいて初めて俺の幸せが成り立つの。
「うん、うん。私、善逸くんのことが好きだよ。誰よりも幸せになって欲しい。だから別れるの。バイバイ。」
そう言って俺の話も聞かずに走って去っていくあなたちゃん。
昨日伝えておけばよかった。
「クソ…!」
絶対あの大学に入ってやる。
*
次で終わらせます。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。