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第1話

[夢]君の音
1,773
2020/02/12 15:53
「ねえ、人が恋してる時の音って、どんな感じの音なの?」
昼下がり。蝶屋敷の縁側で、美味しそうに団子を頬張る彼…我妻善逸にそんなことを問うてみる。
我妻善逸もとい我妻くんは、人並み超えた聴覚を持ち、その耳を澄ませば人の感情をも読み取れると言う素晴らしい能力を持っている。
だから気になってしまうのだ。
私には聞こえない音を。
「んー…どんなって言われてもなぁ…」
我妻くんは口に含んでいた団子を咀嚼し飲み込んだ後、難しそうな顔をして顔をひねる。
そんなに難しい質問だったのかな…?
「そもそもさぁ、俺、悲しいことに心から好意を寄せてる女の子に会ったことないし、どんなに可愛くてニコニコ振舞ってくれる女の子でもほとんどつめたい音ばっかだったから…もし恋の音?っていうのを聞いてても自分じゃ判断できないよ。分からない」
我妻くんが淡々とそんなこと言うものだから、なんだか私は罪悪感と同情の気持ちがじわじわと浮かんでくる。
「なんだよその顔!なんだよその音!どーせ俺は可哀想な人間だよ!!」
私を人差し指で指し、泣きじゃくりながら叫ぶ我妻くん。純粋にうるさい。
「ご、ごめんごめん…んー、じゃあさ、
…私の音って、どんな音するの?」
「え?…あなたの音?」
「そう、私の音。」
「うーん…例えるなら」
目を瞑りながら言葉を探るように言う我妻くん。
「飴玉を口の中で転がすような音と風鈴の音が交わった音…かな」
うまく伝えられないな…と悶々とする我妻くん。
「大丈夫、多分伝わったよ。…恋の音って、すごく綺麗なんだね。」
「そうなんだよな、あなたの音って耳に心地良いというか______え」
我妻くんは、口に運ぼうとしていた何本目かの団子をポロ、と落としてしまった。
「あーーーーっそういえば!!午後の検診あるから私行かなきゃ!!!じゃーね我妻くん!」
「え、ちょ、待っ…!」
そんな我妻くんと団子を無視し、一目散にこの場を退場する。
耳が熱い。
きっと顔は真っ赤だ。
あぁ、心臓がまろび出そう!
「わ…私の今世紀1番の勇気…伝わった…よね?」
小声でそんな事を呟いてみた。

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