前の話
一覧へ
次の話

第2話

1日目
50
2018/04/02 14:20

ゆっくりと、目を開けた。







目を開いて飛び込んできたものは真っ白な天井と、点滴スタンドだった。

ここは…きっと、"病院"。





私はなにかの病気なのだろう。


その"病気"がなんなのかは、わからないけれど。









私は、天野 咲(あまのさき)。

5月18日生まれ。



…大丈夫、名前と誕生日は覚えてる。








でも、記憶がない。

なにも思い出せない。






昨日の記憶もなければその前の記憶もない。

なにも、ない。









ぼんやりと、点滴液が1滴1滴落ちるのを見ながら記憶がないことに"不思議だ"と、そう思った。








ベッドから起き上がった私はテレビをつける。


私の部屋は見たところ個室らしく、物音もせず静かで。テレビでもつけないとこのまま自分の名前とかも忘れてしまうのではないか、なんて不安がよぎってしまったから。



つけたテレビからはアナウンサーが"5月8日火曜日、午前7時になりました。"と今日の日付と曜日、時刻を教えてくれる。




そのままぼんやりとテレビを見ていると、コンコンというドアをノックする音が耳に届いて私はドアの方に目を向けた。









「おはようございます、天野さん。」









そう言って入ってきたのは看護師さん。








「おはようございます。」









そう返した私に看護師さんは、体温と血圧測りますねと言って笑顔を向けてくれた。


看護師さんの胸元にある名前が書かれたプレートはテーブルに置いてあった担当看護師さんの名前が書かれていた紙と一致することから、きっと私の担当看護師さんなんだろうと思う。



看護師さんは体温と血圧を測り終えた後、朝食を持ってきてくれた。










朝食を食べながら、今日は何をしようかなんて考える。










…"何をしようか"そう思った気持ちも何もかも、明日目が覚めた時には消えてしまっているのだろうけれど。



朝食のコンソメスープに写った自分の顔は心做しか、少し悲しそうに見えた気がした。
















朝食を食べ終えて、ちょうど窓から見えた中庭がとても陽当たりが良さそうだったから行ってみることにした。





点滴スタンドを片手に持ちつつ、中庭へ向かった。







思ったとおり陽当たりが良くて、花壇に植えられた花や植物も沢山あってポカポカと気持ちも身体も暖かい。







るんるん、と音符がそこら辺に飛んでるのではないかというぐらいの上機嫌で日向ぼっこをしながらも病院の廊下を通る人達をガラス越しに見てた。








その廊下を通る人達の中で私は見つけてしまった。

















漆黒に染まった髪、藍色の綺麗な瞳。
マスクをしていてもわかる、なにかのオーラ。







かっこいい、なんて思わず見つめていたらその人とパッチリ目があってしまった。












私は思わず目を逸らしてしまった。









自分でも、すぐにわかった。









胸が高鳴って、さっきの綺麗な顔が頭から離れない。














"あぁ、恋だ"















1日目は、中庭で。






プリ小説オーディオドラマ