そう呟き、固まった私を見て、轟くんが珍しく慌てる。
いつもなら、気にしないでと言えただろう。
けれどこれ以上の口を開いたら、轟くんを傷つける言葉が出てきてしまいそうなほどに、
私の中の黒い感情は大きくなっていた。
ガチャンッと音を立てて揺れたテーブルには
目もくれず、
お会計を今までになく速いスピードで済ませた私は、
轟くんの制止にも従わずに、全速力で走った。
分かんないよ、轟くんには、
轟くんにはお母様がいたんでしょ、
自分が自分でいられる場所があったんでしょ、
私にはどこにもそんな所、無かったよ…
自分の醜い本音が、するすると出てくる。
轟くんに文句を言うのは間違いだと分かってはいる。
分かってはいるけど__
私の内側から溢れ出す不満は止まらない。
こんなにも自分は醜いのかと、怖くなって、
いつの間にかたどり着いていた展望台で
私は耳を塞ぎ、目を閉じて、
ただただ冷静になるのを待った。
優しい声がした。
今すぐ振り返って、抱きついてしまいたかった。
震え出す両手を押さえつけながら背中を向け、
私は精一杯の拒絶を見せた。
そう言うと轟くんは、何も言わずに去っていった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。