焦凍くんの様子が、おかしかった。
緑谷くんや飯田くんと話している時も、
いつもより私の方を注意深く見ていて…
その目は揺れていた。
両思いになりたいだとか、付き合いたいだとか…
そんな感情がないと言えば嘘になる。
だからこそ、焦凍くんとは必要以上に密接になることは避けた方がいい。
そんなことをすれば、簡単にこの決意が揺らぐことは、分かりきっているのだから。
でも、だとしても
この期に及んで、まだ焦凍くんに世話を焼こうとしている自分がいる。
自嘲気味に零したその言葉を拾ったのは、誰もいなかった。
︎︎
そして、もうあれから1ヶ月がたった。
実際、適度に距離を置くというのはとても難しいことで。
カフェに行かずに寮で勉強したり、
何かの用事を理由に焦凍くんからの誘いを断ったり…
そうやって避けているうちに、焦凍くんとの距離は以前では考えられない程に開いていた。
もう2週間は会えていないと思う。
毎日のように会うことが当たり前と化していた私にとってそれは、酷く寂しくて。
何をしていても常に頭の片隅に焦凍くんがいた。
桜緋高校には飛び級制度があって、ある一定の基準を期末テストで超えると、
一足先に進級するかどうかが選べるようになる。
焦凍くんと距離を置いてから、
私は暇さえあれば勉強をした。
その結果、私は1学期の期末テストで、その基準を上回った。
つまり2学期からは高校2年生としての学校生活が始まる。
流石にその出来事は自分の中の大ニュースだったので、焦凍くんに報告したのだが…
『そうか、おめでとう』
だけ。
いつにも増して素っ気ないその返事に、少しだけ胸が痛んだけれど、気にしないふりをした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。