あれから、たくさんたくさん話した。
全部ではないけど、私がどんな思いでこれまでを過ごしてきたのかも、少し話した。
もう空を見ると夕暮れではなく、真っ暗になっている。
名残惜しいけど、仕方がない。
もういい時間帯なんだから、引き止めたって焦凍くんが困ってしまうだけだ。
でも、
"まだ一緒に居たい"なんて…
好きだってことを自覚したから思ってしまうのだろうか。
感情の起伏が、今まで生きてきた中で1番激しい気がする。
いつか読んだ、あの小説の主人公も、恋をしてこんな風な気持ちになっていたっけ…
私は主人公ではないから、あんなにキラキラした恋はできないのだろうけど。
でも、嫌な気分ではない。
むしろその逆で、焦凍くんの隣にいられるだけで気分は高揚する。
繋がれた右手をちらりと見て、また頬が緩んでいくのが分かった。
私はふと、隣で歩く焦凍くんを見た。
さっき好きだということを自覚したせいか、心なしかフィルターがかかったように輝いて見える。
轟くんの顔が格好良いと思っていた、なんて口が裂けても言えない。
そんな、まどろっこしいやり取りを続けながら、家路についた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!