髪を整えてもらってからというもの、おばさんは誰にしてもらったのかなんて問い詰めることこそしなかったが、
無言の圧力というものを発していた。
そのうち機嫌が直るだろう。
そう信じていた私はただのバカかもしれない。
日に日に悪くなっていく機嫌。
その日はたまたま爆発してしまったんだと思う。
私が笑顔で家に帰った日、
「何がそんなに楽しいんだい」
と言って殴り倒され、家から追い出された。
月に何度かある。
高校に入ってからは初めてのことで、少々狼狽えてしまったが、すぐに冷静さを取り戻し近くの公園へと向かう。
列記とした春といえど、4月下旬。まだ夜は少し肌寒い。
叩かれた頬がじんじんと痛むのを感じながら、ブランコに腰掛けてギィギィと音を立てて漕いだ。
ぼーっと空に浮かび出した月を眺めて、ふっとため息をつく。
携帯の充電は34パーセント。
所持金は217円。
圧倒的絶望。
もっと暗くなる前にコンビニへ行こう。と意気込んで高く漕いだブランコから地面へ、タッと降り立つ。
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「ありがとうございましたー」
ぶっきらぼうな店員の声を背中で受けながら、コンビニを後にする。
得た食糧は、おにぎり2つ。
いいダイエットになるさ。とポジティブに捉え、歩きながら1つ目のおにぎりを口に運んだ。
元の公園へ戻ると、まず滑り台と一緒に造設されたトンネルの中へ自分の荷物を入れ込む。
そしてその中に自分の体を押し込んだ。
子供用に作られたトンネルに少し窮屈さを感じながらもなんとか身を納め、2個目のおにぎりを頬張る。
ご飯を食べ終わると、完全にやることが無くなってしまったため、水を飲んでから寝ようと外へ出た時、懐中電灯の明かりに照らされた。
警察。初めての補導。
おばないに、村田センセに…不死川センセに、迷惑がかかる。
終わりだ。人生、終わりだ。
おばさんの電話番号なんて教えたら…
警察を振り切って逃げようか。
どっちみち制服なんだから時期に身元はバレる。
突然現れた男の人…いや、男の子は、私の顔を見て合わせろと言わんばかりにウィンクしてきた。
イカつい顔してなに爽やかさんみたいなことしてんだあ!!
と心の中でツッコミながらも、なんとか合わせようと試みる。
警察官は、私たちが帰るまで見守るなんて言うもんだから、仕方なくかばんを持ってその男の人についていく。
曲がり角を曲がって、警察官の姿が見えなくなった時に、ありがとうございましたと私から口を開いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。