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第4話

第3話 ミズキが思い描いた夢
 俺は、歌い手バンドグループStarry Nightで、ドラムを担当している。
 結成理由となったあの人から連絡が来たときは、正直驚いた。5年ぶりとか…そのくらいだったから。
 街はクリスマス一色に飾られ、周囲にはカップルや家族連れが多く見られるようになった頃。それはちょうど20歳になった俺への、クリスマスプレゼントのようなものだった。


 駅前の広場のど真ん中に、きらびやかに輝くクリスマスツリーを見上げながら、白い息を吐いた。
 ツリーの装飾が眩しく目に刺さる。
 俺くらいの年齢なら本来は、彼女だったり、あるいは彼氏だったり…がいてもおかしくないものなのだが、俺に限ってそんな存在はいなかった。

 そんなことを考えて思い出すのは中学…高校時代。
 その頃俺はもう既に、自分の性別を捨てていた。
 俺は、女性として生まれた。
 でも、その視点からの周囲の目も、周りの雰囲気も、自意識も、まるで俺には合わなかった。終いには、中学のときの後輩だった女の子を少しだけ好きになった。
 正直、最終的に自覚したのはそのときだ。
 俺はもう男として生きていく。
 書類や文面には女の性別を記しても、それ以外の日常では、俺の中で俺は男だった。
 ただ、そのせいで友達は少なかった。気持ち悪いとか女のくせにとか言われまくった挙げ句、心を閉ざした。
 一方で、俺はドラムをやっていた。
 といっても、習いに行くにも買うにもお金がかかるから、楽器屋に見に行くふりをして、そこで独学で叩いていた。
 バスドラムから体の中まで響く鼓動に、上4つのドラムから耳を刺して脳まで届く振動に、鈍く光沢を見せるシンバルの胸を打ち付けられる電撃のような音波に、魅せられた。

 しかし、入った高校にはドラムをできるところがなく、仕方なく部活をバスケ部に決めた頃、その部内の一人の先輩が俺に興味を持ったらしく、徐々に距離を詰めてきた。どうせ離れていくに決まってる。そう思っていた俺は、近付いてくるその先輩も、見てみぬふりをしていた。

「何なんですか」

 つい、口から零れた。
 道具の片付けをしているときだった。
 ことあるごとに俺と居たがるその先輩がうざったくなって。

「え?」

 いや、正しくは、うざったかったのは俺自身だろう。
 優しくしてくれる初めての先輩なのに、素直に接せない自分。

「…なんで俺にばっかり…構うんすか…
 知ってるでしょ?俺が…“変人”だって」

 今まで全く反応も見せない俺に対してずっと話しかけ続けてくれた先輩の言葉の間に割って入ったから、急に静まり返った二人の空間で、静かな沈黙だけが聞こえる。

「“変人”…?」

 言ったことを確かめるように、先輩がそう口にした。
 俺は相変わらず黙ったままでいた。

「そんなこと、俺は思ってないけどな」

 はっとして思わず顔を上げる。
 何で?どうしてそんなことが言えるんだ?

「だって、真っ直ぐに自分を生きてる素晴らしい生き方じゃない?」

 そんなことも、初めて言われた。
 嬉しかった。
 なんだか、うざったさもなくなった気がした。

 そうやって学生時代のことを考えていたバイト帰り。
 例の“先輩”から連絡が来た。いくら何でもタイミングが良すぎるだろ。
 加えて、久しぶり過ぎた。
 もう何年ぶりだか数えつつ、その通話をとった。

「…はい」

「久しぶり!
 …ね、確か音楽好きだったよね?」

 急な問いかけに、「あぁ、はい」と頷く。

「どうしました?」

「バンド組まない?」

「は?」

 唐突な言葉に、唐突に出た返しがこれだった。
 バンド?俺と?こんな、何年間も連絡してなかった、学生時代の後輩と?

「嫌なら全然いいんだけどさ、試しに声かけてみたくて…俺にとって結構大切な後輩の一人だったからさ」

 話が急すぎて、全然ついていけていない。
 音楽が好きなのも事実だし、この人は確かにあの先輩だ。

「いや、なんかすごい恥ずかしいこと言ったね俺」

 そんなことを言って、通話の向こうで照れくさそうに笑う先輩の声は、耳にくすぐったかった。
 相変わらず一人で話を続ける先輩は、一通り経緯やら他のメンバーのことやら思い出話やらを話し終えたあと、最後にまた一言、呟くように言った。

「…で、どうかな?」

 「やっぱり嫌か〜」なんて笑いながら言っている。
 俺は、そんな先輩の言葉に割って入って言った。

「やります」

 自分の吐いた息が、つけていたマスクの中で暖かく残る。

「やりたいです」

 驚いた雰囲気が感じ取れるスマホの向こうで、先輩がくすっと笑う声が聞こえた。

「じゃあ、待ってるよ」

 先輩は、俺が誰にも言えずにこっそりとやっていたドラムを知っていたのだ。
 その誘いは、俺へのクリスマスプレゼントだった。




 ─そんな話、あったら良かったのに。