ひとりで訪れた遠い遠い国
旅行向きでないこの国には
旅行者は少なそう
不慣れながらも
コーディネーターの方に付いて
クルーズ船に乗った
そこまで大きくはないけど
中はすごくキレイで綺羅びやかで豪華
この国によく似合う内装で
ひとりで2泊する不安も飛んでいったみたい
私一人には十分すぎる部屋で荷物を少し解いてから
知り合いが誰もいないことを理由に
普段では絶対に着ることのないワンピースを纏って
部屋を出た
甲板に出ようと歩いていれば
バーカウンターを見つけて
恐る恐る近付けば
バーテンダーさんは笑って迎えてくれて
Wine という字を指差して
出てきたスパークリングワインを持って
キラキラした道を進み甲板へ出た
海と出発地だろう遠い街が見えるベンチに
座ろうとしたとき
反対側の甲板から何やら騒がしい声が聞こえた
その声を辿って行けば
若い男の人たちの群れ
よくよく見れば
あれは絶対に私の大好きな7人
遠くても分かる
私が見間違うはずかない
ずっとずっと大好きで
毎日テレビでスマホで見つめてきたんだから
周りを見てもそれらしい人も機会も無くて
休暇なのかなって自己解決した
呆然と立ち尽くしていれば
こちらを見る目線に気がついた
遠くても鋭い目が私を捉えているのは分かる
休暇中に嫌な気持ちにさせちゃいけない
そう思って元いた場所へ走って戻った
始まったばかりの旅行なのに
彼らをひと目見ただけでもう満たされてしまった
期待していたのと違う
シュワシュワするワインを喉へ流して
ぼーっと海を見つめていた
ベンチにワイングラスを置いたとき
後ろから聞こえた声
飛び出そうになる心臓を抑えて振り返れば
やっぱり頭に浮かんだそのままの顔があった
勉強していて本当に良かった
心からそう思った
私の座るベンチに触れたテヒョンの手は
想像していたよりも大きくてキレイで
手を見ただけなのに涙が出そうになった
そのまま前に出てきたテヒョンは
私の目の前で海を見てる
返事をしなきゃって思うけど
今起きてることがまだ信じられなくて
言葉なんて出てくるわけがない
しばらくすると空の色が赤く色づいてきて
スマホを出したテヒョンは
その夕日をスマホに収めていた
テヒョンのスマホに保存された写真と同じ風景を
見つめていられるだけで幸せだ
テヒョンを撮ってると思われたくなくて
しまったままにしていたスマホを出して立ち上がったけど
まだテヒョンは私の目の前にいて躊躇してしまう
休暇をお邪魔してすみません
ほんとになんか申し訳なくて
そう言ったけど
って笑ってから
私の座っていたベンチに座ってしまった
どうしていいか分からなくて
立ったままでいれば
テヒョンの隣をポンポンと叩いて
私を見てくれたから
とりあえず座ってみた
特に話が始まるわけではなくて
それがなんかテヒョンらしくて嬉しかったけど
私には1秒が1分に感じられて
ドキドキが止まらない
たぶんめちゃくちゃ顔が赤くなってる気がする
テヒョンがじーっと私の顔を見るから分かる
恥ずかしくて顔ごと目を反らしたら
って言われて
ずっとぎゅっと握ったままになってたスマホの画面を開く
カメラを起動した瞬間にスマホを取られて
少し操作するとすぐに
テヒョンの腕が私の身体に回って
私の顔のすぐ真上に
テヒョンの顔
シャッター音がしたあと
そのままの体制で私に写真を見せてくれる
テヒョンが
テヒョンが綺麗でかっこいいです
いたずらに笑う顔は
最高に可愛くて
たぶんさっきよりも顔が赤くなってる
油断したら涙が出そうなくらいなのに
涙を流さないために出た言葉がこれだった
そんな私の方を見ながら
たぶんテヒョンは優しく笑ってくれてる
その言葉に
ついテヒョンの方を向いてしまって後悔する
だめだ
これは本気で好きになってしまうやつだ
サイン!
まさかサインも貰えるのかな
それならスマホのカバーにしてほしい!
ここで訳の分からないわがままな気持ちが出て
返事を待たずに走って
さっきのバーカウンターで
必死で書く動作をして
いくつか出してくれたペンの中から
油性ペンだけ取って走って戻った
まだ後ろ姿が見えて安心した
眉をくいっとさせて私のワイングラスを見たテヒョン
なんかもう倒れてしまいそう...
私の飲んでたやつなのに
スマホのプラスチックのケース側を向けて差し出せば
さらさらっと書くとペンとスマホを私へ差し出しながら
ゆっくり立ち上がった
もう行っちゃうよね
夢みたいな時間だった
今までで生きてきて一番幸せだったかも
ドキドキ言う胸が今は痛くさえ感じる
私の方へ身体ごと向くと
すっと近付いてきたテヒョン
そっと少し冷たい手が私の肩に触れる
テヒョンのいい香りが鼻を掠めてすぐ
耳元で低い声がした
身体が凍ったみたいに動けなくなった
私の顔を見て笑った後
ゆっくり私の肩を撫でてから歩き出したテヒョン
その背中を見えなくなるまで見送ってから
ふと思い出してスマホを見れば
想像してたサインはなくて
規則正しく並んだ数字の羅列
やっぱりここは夢の中だよ
まだ聞こえる賑やかな声と
スマホに残る写真とこの数字
もしかしたらまだ
夢の時間は続くのかもしれない
テヒョンのことを考えすぎて
今朝この夢を見て目が覚めました
夢なのにドラマみたいで
触ったこともないのにしっかりした感触まで感じました
幸せです♡
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。