第36話

夢じゃない-TH
3,926
2022/05/30 00:57








ひとりで訪れた遠い遠い国




旅行向きでないこの国には

旅行者は少なそう




不慣れながらも

コーディネーターの方に付いて


クルーズ船に乗った




そこまで大きくはないけど

中はすごくキレイで綺羅びやかで豪華


この国によく似合う内装で

ひとりで2泊する不安も飛んでいったみたい





私一人には十分すぎる部屋で荷物を少し解いてから


知り合いが誰もいないことを理由に

普段では絶対に着ることのないワンピースを纏って


部屋を出た










甲板に出ようと歩いていれば

バーカウンターを見つけて


恐る恐る近付けば


バーテンダーさんは笑って迎えてくれて


Wine という字を指差して   


出てきたスパークリングワインを持って



キラキラした道を進み甲板へ出た











海と出発地だろう遠い街が見えるベンチに

座ろうとしたとき



反対側の甲板から何やら騒がしい声が聞こえた



その声を辿って行けば


若い男の人たちの群れ







あなた
っえ!?!?




よくよく見れば


あれは絶対に私の大好きな7人




遠くても分かる

私が見間違うはずかない


ずっとずっと大好きで

毎日テレビでスマホで見つめてきたんだから




あなた
なんで...?撮影?



周りを見てもそれらしい人も機会も無くて


休暇なのかなって自己解決した






呆然と立ち尽くしていれば

こちらを見る目線に気がついた



遠くても鋭い目が私を捉えているのは分かる



休暇中に嫌な気持ちにさせちゃいけない





そう思って元いた場所へ走って戻った
















あなた
最高の旅行だった...




始まったばかりの旅行なのに

彼らをひと目見ただけでもう満たされてしまった




期待していたのと違う

シュワシュワするワインを喉へ流して



ぼーっと海を見つめていた




ベンチにワイングラスを置いたとき


後ろから聞こえた声







テヒョン
こんばんは




飛び出そうになる心臓を抑えて振り返れば


やっぱり頭に浮かんだそのままの顔があった




あなた
あ....
テヒョン
あー、"こんばんは"?
あなた
アンニョンハセヨ...







勉強していて本当に良かった


心からそう思った




テヒョン
見ないふりしてくれましたか?
あなた
...はい、すみません
テヒョン
謝らないで?




私の座るベンチに触れたテヒョンの手は


想像していたよりも大きくてキレイで



手を見ただけなのに涙が出そうになった






テヒョン
綺麗だね?





そのまま前に出てきたテヒョンは

私の目の前で海を見てる





返事をしなきゃって思うけど

今起きてることがまだ信じられなくて


言葉なんて出てくるわけがない




しばらくすると空の色が赤く色づいてきて


スマホを出したテヒョンは

その夕日をスマホに収めていた




テヒョンのスマホに保存された写真と同じ風景を

見つめていられるだけで幸せだ






テヒョン
写真撮らないの?
あなた
あ...撮ります





テヒョンを撮ってると思われたくなくて

しまったままにしていたスマホを出して立ち上がったけど



まだテヒョンは私の目の前にいて躊躇してしまう






テヒョン
僕邪魔かな?
あなた
そ、そそんなことないです!
写っちゃったら駄目だと思って...
テヒョン
そっか...ありがとう





テヒョン
僕たちのファン...なのかな?
あなた
え!っと...そうです、すみません




休暇をお邪魔してすみません

ほんとになんか申し訳なくて



そう言ったけど




テヒョン
ありがとう、嬉しい



って笑ってから


私の座っていたベンチに座ってしまった






どうしていいか分からなくて

立ったままでいれば



テヒョンの隣をポンポンと叩いて

私を見てくれたから




とりあえず座ってみた






特に話が始まるわけではなくて

それがなんかテヒョンらしくて嬉しかったけど


私には1秒が1分に感じられて


ドキドキが止まらない





テヒョン
誰が好き?
あなた
みんな好きです
テヒョン
そっか、嬉しいな
あなた
お休みですか..?
テヒョン
そうだよ
初めてプライベートで旅行に来たの
あなた
そうなんですね
見つけてしまってすみません...
テヒョン
こちらこそ
知らないフリしてくれたのに
話しかけてごめんね?
あなた
あ、いえ、嬉しかったです//





たぶんめちゃくちゃ顔が赤くなってる気がする


テヒョンがじーっと私の顔を見るから分かる




恥ずかしくて顔ごと目を反らしたら





テヒョン
写真撮ったら?



って言われて


ずっとぎゅっと握ったままになってたスマホの画面を開く






テヒョン
貸して?




カメラを起動した瞬間にスマホを取られて


少し操作するとすぐに




テヒョンの腕が私の身体に回って

私の顔のすぐ真上に


テヒョンの顔




あなた
え、ええぇ////
テヒョン
ははㅎㅎ撮るよ?



シャッター音がしたあと


そのままの体制で私に写真を見せてくれる





テヒョン
真っ赤だね
あなた
あ...はい、綺麗です




テヒョンが

テヒョンが綺麗でかっこいいです




テヒョン
君の顔だよ?ㅎ




いたずらに笑う顔は

最高に可愛くて


たぶんさっきよりも顔が赤くなってる


油断したら涙が出そうなくらいなのに







あなた
写真なんて撮って良かったのかな



涙を流さないために出た言葉がこれだった



そんな私の方を見ながら

たぶんテヒョンは優しく笑ってくれてる





テヒョン
君だから撮っただけ




その言葉に

ついテヒョンの方を向いてしまって後悔する




だめだ


これは本気で好きになってしまうやつだ




テヒョン
名前は?
あなた
あなたです...
テヒョン
何か書くものある?
あなた
あ...




サイン!


まさかサインも貰えるのかな




それならスマホのカバーにしてほしい!


ここで訳の分からないわがままな気持ちが出て






あなた
1分!待っててください!!



返事を待たずに走って


さっきのバーカウンターで



あなた
ペン!ペン!!!




必死で書く動作をして


いくつか出してくれたペンの中から

油性ペンだけ取って走って戻った




まだ後ろ姿が見えて安心した



あなた
す、すみません//ペンです!
テヒョン
はは//ありがとう
あと、それ一口もらった


眉をくいっとさせて私のワイングラスを見たテヒョン


なんかもう倒れてしまいそう...




私の飲んでたやつなのに









あなた
夢...かな
テヒョン
紙ある?
あなた
あ...ここに!お願いします!



スマホのプラスチックのケース側を向けて差し出せば



テヒョン
ほんとにここでいいの?
あなた
はい!





さらさらっと書くとペンとスマホを私へ差し出しながら


ゆっくり立ち上がった





もう行っちゃうよね


夢みたいな時間だった

今までで生きてきて一番幸せだったかも



ドキドキ言う胸が今は痛くさえ感じる


私の方へ身体ごと向くと

すっと近付いてきたテヒョン





そっと少し冷たい手が私の肩に触れる



テヒョンのいい香りが鼻を掠めてすぐ


耳元で低い声がした





テヒョン
夢じゃないよ






身体が凍ったみたいに動けなくなった



私の顔を見て笑った後

ゆっくり私の肩を撫でてから歩き出したテヒョン



その背中を見えなくなるまで見送ってから






ふと思い出してスマホを見れば





想像してたサインはなくて


規則正しく並んだ数字の羅列








あなた
嘘だ...






やっぱりここは夢の中だよ







まだ聞こえる賑やかな声と


スマホに残る写真とこの数字





もしかしたらまだ

夢の時間は続くのかもしれない















テヒョンのことを考えすぎて
今朝この夢を見て目が覚めました
夢なのにドラマみたいで
触ったこともないのにしっかりした感触まで感じました
幸せです♡

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