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2021/02/13

第13話

有無 こわい
有能。無能。そんな言葉、どこのハートレスさんが生み出したんでしょうか。

僕は問います。今。
まぁどうせ応えはないんでしょうけどもね。

有能と言われても、僕は困るだけなんすよ。嬉しくなんてないんすよ。だって、俺と真逆のレッテル、『無能』を貼り付けられたやつがいつも割と近くにいるんですもん。

毎度毎度ヘラヘラと笑いおってまぁ薄気味悪いやつなんですけども、貼られてるレッテルの割にはまぁ、働きもんなのかな、と僕は思いますね。

アイツはいつもすぐどっかに い無くなりそう でね、不安定にふよふよヒラヒラしとるもんで。

「…なぁ、トントン…」

たまぁにこんな同情誘うような呼び方してきよるんですよ。

「なんや」

「…僕なぁ、…」

「「いや、やっぱなんもないわ」」

「!!」

「ハンッ、絶対言うと思って言ってみたら案の定やったわ」

「……あは、やっぱトン氏すげぇわ」

ほらまたヒラヒラ笑うんよ。某青だぬき漫画に出てくるヒ〇リマントみたいな奴なんす。

「…なぁ、トン氏ぃ…」

あら、珍しくリベンジするみたいですね。

「僕なぁ、…ひと、よく見てまうんよ」

ベランダから見える小さい人間達を摘むみたいに見えるよう、無能は指と指との空間を狭めた。

「人間観察みたいなもんか」

「そうねぇ…ついつい分析しとる」

「それがお前の何になるん?」

「そうやなぁ……そっか、トントンには人間に対する興味が入ってないんやったっけ」

タバコに掠れた声がイヤに耳に障りよる。

「せやな」

「僕はねぇ、人が怖いんよ。信じられないわけやない。一緒にいると楽しい。」

「じゃあ怖くないんちゃうの」

「……怖い。」

髪がかかって半分も見えない横顔。その髪の隙間から、死んだような真っ黒い小さめの瞳が…僕の目と、合った。

目と目の間に静電気が起きたみたい。僕は思わず目を人間どもに向け直した。それらは蟻みたいに蠢きつづけている。

「怖いよぉ…なんでか分からんけど……怖くて怖くてなぁ。参るわ。」

「…俺の事も怖いんか」

「そりゃあ皆そうよ。生きてる人間みんなが怖くて怖くてしゃあないよ。」

ナンデ?
…そんな事、聞けないわ。

「……俺もこわい」

「……トン氏がぁ?人怖い言うわけ?」

「せやで」

「なんで?」

あぁ、コイツ、聞きよった。やっぱ無能ですわぁ。

「お前、自分で答えられないくせに俺には聞くんかよ。」

「あぁそっか。ゴメン」

はいはい皆さん注意してくださいね。こいつの''今気づいた''、''今知りました''みたいな「そっか」は全部ウソっぱちなんでねぇ。
ほんましらこい奴。

「…お前、分かってるやろ。全部。」

「ん〜?知らへんよ。俺は無能やからね。」

こいつまたヘラっとる。

「お前殺すぞ」

「キャー、こわぁい」

こいつはほんま、無能の『フリ』が大好きなやつなんすよ。いつでも逃げられるやろ言うてそのレッテル返上しようとしないんすよ。むしろ『いやいや僕は無能ですよ』っつー汚名挽回を度々やらかすクズ野郎なんすよ。







ぼくもむのうがいい。
余計なことばっか考えよる脳みそなんかなくして。

「何が羨ましいん?」

…は?

「声、出とったで。羨ましいって」

あーあーあー、やってもーたやってもーた。

「ヒハハハハハッ、イヒッ、アハハハァ」

「何何どーしたん。トントン…?」

キョトンとすんなエセ無能。

「お前がやるみたいにごまかし笑いした。」

「……あぁそっか。羨ましいってそういう…」

また「そっか。」
てめぇはごまかしのレパートリーがすくねぇな。すぐ分かってもーて…

「トントンにはなれんよ。無能。」

「はぁ?意味わからへんし」

「じゃあお前、こんなこと出来んの?」

ペテン師は、窓の近くに置いてあったハンマーを右手に取った。その異様なにこやかさに狂気を覚え、思わず後ずさる。

「はい、有能ポイント+3」

楽しそうに言いながら、元の位置に戻る。早く、あいつの手からアレをもぎ取らなきゃいけない、気がする。

彼の左手の人差し指はピンと張って虚空を差し、そのままベランダの柵にゆぅっくり着地した。

「なにするん…?」

ハンマーの金属部分は、右手首のしなりに準拠しながら人差し指へと落ちていく。

「おま、やめろ!!!」

ゴッッ
察したのに、ゴミみたいな反射神経はそれに追いついてくれなかった。

「…はい、有能ポイント+4」

俯きすぎて顔が見えない彼は、上ずった声で言った。人差し指に乗っかった鉛の塊を、ゆぅっくりと持ち上げる。右手にかかった重力だけが数倍になっているのかと思うほどに、ゆぅっくりと。

人差し指は、陽が沈みたての空みたいな薄暗の紫色だった。

「それ、ゆび、潰れ、て…」

当然、声が震えている。

「アハ、有能ポイント+3」

この期に及んで何を呑気なことを言う。

「ぱっぱらぱ〜、有能ポイントが10に到達しました。おめでとーございマース。」

「………」

起伏と抑揚が全く感じられない。潰れた指をプラプラと振りながら、彼はおどけた調子で ぱちぱちぱちー と続けた。

声が出ない。狂ってる。こいつは狂ってる。頭が痛い。口は空気を咀嚼することをやめない。

「なぁ?だから言うたやろ。お前にはなれへんって。」

「無能って、脳みそ入ってないんやで。」


真正面から覗かれた目はがらんどうで、
もはや空洞なのではないかと疑った。
そこから、風が吹いてきた。






わけ、ないやろ。