軍パロ設定、死ネタを扱っています。
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死したものほど、美しい。少なくともオレは、死に勝る美しさをまだ知らない。
死は甘美だ。魂という邪悪の塊が抜け落ちた体躯は、ただひたすらに純粋で綺麗だ。
死んだ魚が色が変わるまで焼かれたものをつまみ上げ、その目を見つめる。白くてもう何も見ていないように見えるその目が、オレが知らないずっと遠くを見ているようで、すごく羨ましい気持ちに駆られる。
「お前それやめろ。食べ物で遊ぶ幼稚園児みたいに見えるで。」
「失礼やなトン氏。」
少しムッとしたが、確かに怪訝に見られる行動だと思い直して焼き魚を皿に戻す。
「それより2人。食い終わったら会議室D。」
グルちゃん及び総統の声が飛ぶ。
「はい」
「オッケー」
「とか言っときながら、お前が1番食べんの遅そうやねんけど。ちゃんと全部食うまで席から立たせんからな。」
「ゔ…せめて焼き魚は許してくれないか?」
「アホかお前。今朝の主食やぞ。」
クスクスと笑いながらその光景を眺める。
結局2人は食べ終わってもグルちゃんを待ち、3人仲良く会議室Dに入った。プロジェクターは既に準備されており、総統の顔つきとなった彼はそれを操作しながら話し始めた。
「近日、和解を求めてきたG国と協定を結びに出向く予定だ。交渉はいつも通り大先生。ただ、G国の連中は総統様にも直接出向いて欲しいんだと。」
「なんやそれ、うさんくさ。」
「その通りだ。だからエミさんとロボロに情報を集めてもらった。やはり何やら怪しい動きをしているみたいだ。だが、それは自国に向けてではない可能性もある。という事で協定を結ばないと断言するのにも些か不安がある。」
「…じゃあ、いざと言う時のための戦える準備もしておきたいという話ですか。」
書類上は書記長、認識上は総統補佐のこの男は、総統と同じく先ほどと全く別人の顔つきをして彼に真っ直ぐ向かう。
「端的に言うとそういう事だ。それと…」
「…あちらの国の拠点に入る際には入念な身体チェックが行われる。つまり、正面から協定を結ぶという体で入る私や大先生は、武器を一切持ち込めないんだ。そのため、いざと言う時に私達が人質に取られる可能性もなくはない。というか、G国がなにか仕掛けてきた場合には確実にそうなるだろう。」
「そうですね。」
「そうなった場合、無線が飛んできた瞬間に突入を開始してくれ。早く救出しようとしてムリに突っ込むのはナシだ。分かっているだろうが二人とも訓練を積んでいる。ある程度の時間と人数は稼いでいられるのでな。」
「そこは心配しとらんよ。」
「あぁ、良かった。ではトン氏。」
「はい。」
「この件を他の幹部達に伝え、各自にマップを配布、それぞれの部隊の動きの確認、相談をしておいてくれ。」
「毎回思うけど、なぜ必ず先に3人で話すんです?二度手間だと思うんですが」
「私一人でまとめた事を一斉に皆に話すと、幹部達はそれを忠実に、時には臨機応変に対応しようとしてくれる。非常に優秀だ。だが、俺の視点からは気のつかない事や、思いつかなかった事を先に2人が意見してくれる事で、策はもっと完璧になっているんだ。ここはいわば推敲の場なんだよ。」
「そしてその出来のいい策を皆に提示し、総統様さすが、って思われたいと。カッコつけやなぁ。」
「はは、物は言いようだな。」
総統様は苦笑いを挟み、グルちゃんに戻った。
「では、そういう事で。」
「オッケー」
「任しといてや」
そこから2週間ほど経ち、G国へ出向く日となった。その日の早朝、最後の幹部会議が行われた。様々な確認事項が過ぎ、総統から締めの一言が言い渡された。
「今回はあくまでG国の動きを見てから、各部隊動かなければいけなくなった場合にのみ動け。穏便に済ませられる可能性は残っているのだ。この準備が杞憂で終わる事を祈っている。死ぬなよ、諸君。」
「「「「「「「「「「ハイル・グルッペン」」」」」」」」」」
拠点内にグルちゃんと大先生が入ってから20分後。偵察部隊から状況報告の無線が入っている時だった。
『こちら偵察部隊。今のところ目立った動きはありま』
無線機越しにこちらの耳が潰れてしまいそうなほどの爆発音が響いた。10秒と待たずにまた無線機が音を発した。
『こちら後衛部隊!偵察部隊の位置がバレ、即刻爆撃された模様です!』
まずい。G国は意外と好戦的だった。
ガガッ、と音が鳴り、総統からの無線が入った。声は…ない。
『こちら前衛部隊。状況は?』
「ゾム、まずい。総統からの無線が入ったが言葉がなかった。中の2人はかなり逼迫した状況なんだと思う。ただちに突入を開始しろ。」
『了解』
無線を切ってすぐ、いてもたってもいられなくなった。
「お前達はここに残っていろ。こっちは私一人で突入する。」
兵たちは戸惑いの声を上げたが、構わず無人の部屋の窓を割って侵入した。
1人の方が動きやすい。元々そうだったから。
ゾムの次に強い体術を使い、障害物どもをなぎ倒しながら総統を探した。拠点は広く、入り組んでいた。
一度深呼吸をし、耳をすました。
「…2階の、右奥」
騒音の聞こえる方へと走り、どんどんとその音が近くなっていく感覚をなぜか鮮明に感じる。うめき声。下品なけなし言葉。骨と骨が潰し合う音。人が倒れる鈍くて重たい音。
扉が開いている部屋を目視した。扉の前にはものと化した元人間が数人倒れていた。美しいものに目を奪われるのは当然で、その場で少しの間ボゥッとそれらを見た。
「おいオスマン!危ねぇよ!」
久しぶりに怒鳴られて我に返った。すんでの所で肩に刺さるところだったナイフを素手でいなし、ヒュルッと転ばせ意識を奪う。
「よし、とりあえず今いる分はこれで全員。」
そう言って大先生はいそいそとタバコを取り出し、廊下に出た。
「二人ともケガはないね?」
「ないゾ。」
「さて、まためんどくさいのが湧く前にここを出ようか。」
「そうだナ。」
総統が1歩踏み出したその時、ドヂャッという変な音がした。
「あ゙…?」
ドサッと聞こえて後ろを振り返ると、黒スーツの男が両手でリボルバーを握りしめて力尽きていた。
総統が俺の方へ倒れ込む。背中に目がいくと、左肩甲骨より少し内側を中心として血が滲んでいるのが見えた。
「か、はッ…」
「グルちゃん…?しぬの?」
「んん…これはしぬなぁ」
情けなく、寂しそうにグルッペンは笑った。ゾクゾクと鳥肌が立っている。
「グルちゃん…グルちゃん…」
「おすまん…つぎ、おまえにまかせたからな」
「え…」
あぁ、本当に死ぬんだ。グルッペンは、
いなくなるんだ。
「たの、んだ………」
グルッペンは目をつむり、オレの腕の中で全身の力を抜ききった。息も、止まった。
「あぁ…あ゙あ゙あああぁぁ」
死んだ。グルッペンが死んだ。
「グルッペン、グルちゃん、総統…」
「キレイだね」
あぁ、こんな、長い年月を共に過ごし尊敬してきた人が真の美しさを兼ね備える場面をこんな間近で見ることが出来るなんて。オレはなんて幸せなんだ。
不思議だな。この人が生きていたうちは紛れもなく助けたいと、生きていて欲しいという気持ちに埋め尽くされていたというのに。
「美しい。すごく美しい。素敵だよ。」
現在進行形で堕ちていく体温。もう動くことの無い体。動くことの無い唇。決して上下しない薄い胸板。回ることの無い脳みそ。
まぶたを優しく押し上げると…ほら、まだオレが知らないどこかを見ている美しい瞳だ。
あなたはこの世で1番の美しさを手に入れたんだね。おめでとう。
オスマン、のちの総統は、敬愛していたグルッペン・フューラーの死を目の当たりにし、その体を、その光景を一生をかけて愛でた。
死したものほど、美しい。少なくともオレは、死に勝る美しさをまだ知らない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。