第5話

優しい目
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2023/12/07 06:55
学校の帰り道、珍しく早帰りだったので桜が綺麗な咲の昔馴染みの公園へと寄った。

咲は、早咲きの桜を見て目を細めた。
小花衣 咲
小花衣 咲
………今年も綺麗に咲いて良かったね。
幹に優しく触れ撫でていると
山田 一郎
山田 一郎
……………小花衣さん?
低く落ち着くトーンで咲の名前を呼んだ一郎
小花衣 咲
小花衣 咲
?………一郎さん?
咲が振り向くと驚いた様子でこちらを見ていた
山田 一郎
山田 一郎
?今の時間学校じゃ…………
小花衣 咲
小花衣 咲
今日は、早帰りなんです。もしかして二郎くん伝え忘れたのかも。隣でやばいって顔してましたから。
山田 一郎
山田 一郎
あー、そういうことか。ったく二郎のやつ
そうやって呆れたようにため息をつく一郎の目は優しげだった。
小花衣 咲
小花衣 咲
一郎さん
山田 一郎
山田 一郎
ん?なんだ?小花衣さん
首を傾げながらこちらに来る一郎に咲は笑いが出てきた。
小花衣 咲
小花衣 咲
"小花衣さん"なんて言いにくそうなので咲でいいです。こちらもむずがゆいですし。二郎くんたちと話してる感じで大丈夫です。
くすくすと笑いながら、だけど遠慮気味に
小花衣 咲
小花衣 咲
…………それとも図々しいでしょうか。
顔をうつ向かせて言う咲に一郎は慌てながら伝える
山田 一郎
山田 一郎
いや!むしろ助かる。咲でいいか?
小花衣 咲
小花衣 咲
はい。構いません。
山田 一郎
山田 一郎
なら、咲もなるべく遠慮なくしゃべったりしてくれ。その方が俺は嬉しいしな。
一郎の笑顔で伝えるその言葉は暖かく、優しかった。
咲はそんな彼をまぶしそうに見て
小花衣 咲
小花衣 咲
じゃあ、そうしますね。
ありがとうございます
二人の間は暖かい空間に包まれていた。
山田 一郎
山田 一郎
…………そういえば、何でさっき笑ってたんだ?
小花衣 咲
小花衣 咲
あぁ。………言いにくそうに名字で言うので可愛らしいなと。
思いだしながら笑う咲に一郎はムッとしながら
彼女の頬に手を伸ばす。
小花衣 咲
小花衣 咲
にゃいすりゅんでしゅか!
山田 一郎
山田 一郎
ははっ!可愛いって言うのはお前のことだろ?
その言葉に顔を赤らめさせる咲に一郎は手をはなした
小花衣 咲
小花衣 咲
………可愛いなんて初めて言われました。言いなれてなくて………
一郎が触れていた頬に手を伸ばし赤みを消そうとする
山田 一郎
山田 一郎
そうなのか?二郎からはモテるって聞いてたけど。
咲はその言葉に悲しげに笑い
小花衣 咲
小花衣 咲
………私、よく人より大人っぽいとか高校生に見えないとか言われてるんです。
近くのベンチに座った。一郎もその隣に座る
小花衣 咲
小花衣 咲
顔立ちとかじゃなくて雰囲気とか人と一定距離保ってるところとか。とにかく高校生には思えないほど考え方が達観してるとか。
咲は空を見た。澄みきった美しい青空だった。それを見て自虐的な笑みを浮かべた。
小花衣 咲
小花衣 咲
別になりたくてこうなった訳じゃなかった。そうしなきゃいけなかった。だけど、学校ではそれが私の………"小花衣 咲"の当たり前になっちゃった。
小花衣 咲
小花衣 咲
普通の女の子みたいに可愛い物とか好きなものをたくさん、たくさん触れたかったんです。



そう思ってたとき、二郎くんから皆さんの過去聞かされてました。
一郎は目を見開いたが
小花衣 咲
小花衣 咲
彼の相談に乗ってたんです。どうしたらにぃちゃんと仲良くなれるかとか、力になれるとか。
小花衣 咲
小花衣 咲
それを聞いて羨ましいと思ったんです。大切な存在がいることに。…………家族がいることに。
山田 一郎
山田 一郎
っ…………咲もしかしておまえ
一郎は分かってしまった。咲に家族がいないことも、大切だと思うひとがいないと。

……………ずっと孤独だったことを。
小花衣 咲
小花衣 咲
家族とかわからないんです。私の物心ついた頃にはいなかったから。寂しいとか悲しいじゃなくてただ羨ましくて…………分からなくて
そこでようやく一郎に顔を向けた
だがその顔は悲しげな苦しげな困惑したような複雑な顔をしていた。
小花衣 咲
小花衣 咲
…………って!ごめんなさい!暗い話させちゃ………っ!?
咲が気づいたときには暖かい温もりが体を覆っていた。
しばらくの間困惑してたが、状況を把握したのか顔を真っ赤にさせた。

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