私はされるがままに真っ白なウェディングドレスを着せられ、化粧を施された。
そして天上も壁も床も真っ赤な部屋の真っ赤なキングチェアに座らされ、壁一面を覆う大きな鏡と向き合わされた。
ダヴィドさんは真っ黒なタキシード姿で、私の横に立つ。
アベルなら絶対に私を助けてくれるって、心のどこかで信じてた。
アベルの忠告を無視したのがダメだったのかな?お嫁さんになろう、とか背伸びしちゃったのがいけなかったのかな?
……もう、わかんないや。
ダヴィドさんは私の顎を掴み、強引に自分の方を向かせた。痛い!
殺気に満ちた目から目をそらすと、乱暴に手を離した。
この人は、嫌でも元いた世界のことを思い出させる。怖い!怖い!怖い!
アンナさんが一体どうしたんだろう。
こんなに乱暴な人だ、あまり良い話は聞けそうにないけれど。
この人の言うことを信用できない。したくない。
でもアベルにひどく冷徹な部分があるのも事実で、完全に否定することもできないでいる。
身振り手振りでダヴィドさんは自分を大きく見せる。
その様子が矮小で幼稚な同級生達を連想させて、ダヴィドさんへの恐怖心が積もる。
アベルの殺人は、罪に問われない……?
でも、殺人が罪に問われないとしても。
ダヴィドさんは両腕を広げて高らかに笑った。耳障りだ。聞きたくない。
向かい合う鏡に、この部屋とは全く違う風景が映る。
深い海を思わせる青い髪、儚げな表情、忘れはしない。
……アベル。アベルがいる!
鏡の中のアベルは跪いて、白のキングチェアに腰をかけたアンナさんの手を取り向き合っている。
昔の私ならこの構図に興奮して、アンナさんを自分に置き換えて空想したかもしれない。
でも、今はやだよ。やだよ。私がお嫁さんになりたいよ!アベル!
高らかに宣言して、ダヴィドさんは私にウィンクした。
身体の芯から凍てつくような感覚に襲われた。彼はアベルの何を知っているの……?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!