屋敷の外には青いバラが咲く大きな庭園が広がっていた。その奥には、白いアーチと綺麗に刈り込まれた緑の壁。
かくれんぼができそう!なんて思ってしまって、私は子供だなって落ち込む。
アベルは悪戯っぽく笑ってから、白いアーチをくぐって緑の壁に走って行った。
アベルの笑顔が可愛くて、私はぽっーっとしちゃう。
……そうだ、かくれんぼなんだし目を閉じて10数えなきゃ。
目を閉じてもアベルの悪戯っぽい笑顔が消えない!ううう、お嫁さんなんだからこの程度で動揺してちゃダメだってば!
動揺を抑えて頑張って叫んだけど返事がない。
そうだよね、アベルはスマートだし、声を出して居場所のヒントを与えるなんてしないよね。
心に魔が差す。
ここで、アンナって言ったらどうなるだろう。
私は声が小さいし、アベルだって既に遠くにいるに違いない。
絶対に聞こえない。我慢してるけど本当はもやもやしてるし、お嫁さんとしてその程度の憂さ晴らし、させてほしい。
靴音も気配もなく、唐突にアベルが背後に現れた。
私の背を冷や汗が伝う。
輝く黄色のドレスの前での、ひどく冷たいアベルが背後にいる。
あれは、幻なんかじゃなかったんだ。
アベルは背後から私を抱きしめて、私の手に金属を握らせた。
感触からするとたぶん、鍵だ。
慈しむような声がした。その声を聞き届けた瞬間に、私の意識はぷつりと途切れた。
× × ×
目を覚ますと私は制服を纏って、天蓋付きのベッドの上だった。
セツさんもセトさんも、当然アベルもいない。
婚約指輪もない!それなのに握らされた鍵は、手中にある。
夢じゃないんだ……。なんで?なんで?
わけがわからないまま突き放された。
私は死ぬ運命、みたいなことを言ってたけど、あんな世界に戻ったって死んでるのと変わらないのに。
私はもう一度、アベルと話がしたい。
強く強く願って、鍵をきつく握った。
青い輝きが私を包み込んで、次の瞬間には、錠前だらけの鉄の扉の前にいた。
鎖に絡みつく薔薇に触れた瞬間に、手の中の鍵が青く光った。
薔薇は枯れて灰になり、全ての錠前が音を立てて壊れて、扉が開く。
目の前には地下へ続く階段だけがある。
その光景にある物語を思い出す。
魔法の鍵。地下室。登場する男性の美醜に差はあるけど、これは。
× × ×
階段を降りきった先の真っ黒な扉の鍵穴に、手中の鍵をさしこんだ。
瞬間、鍵は青い光をまき散らして鍵穴ごと消えた。
嫌な予感しかしない、けれど。
決意を固めて、黒い扉を押し開けた。
扉の向こうには、綺麗なドレスを纏った女性の死体に囲まれて悲しげに笑うアベルが立っていた。
アベルは青髪の王子様じゃない、今の状況が青ひげの物語をなぞっているとするなら、彼は……。
殺人者だ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。