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第7話

あなたはとても素敵な人
アベル
アベル
察しているようだね、僕は彼女たちを殺した
 私は尻餅をついて、そのまま石畳に倒れる。これだけ痛いのに埃ひとつ立たない。

 中央に燭台が1つだけの暗い部屋なのに、いやに手入れが行き届いている。
セツ
セツ
もう奥様と呼ぶ必要はありませんね、神谷佳音
セト
セト
アベル様も回りくどいんですよ本当。変な執行猶予用意しちゃってさぁ……
 この部屋の手入れをしていると思しき使用人二人が目を開いて、倒れている私を見下ろす。

 同級生達の視線みたいに怖くて痛くて仕方ない!……見ないで!!
アベル
アベル
佳音を安心させるように目を閉じていてもらったんだが、その必要ももうないな
 足音がする。重い足取りだ。私の身体を眩しい影が覆った。

 輝く黄色のドレスを纏った美しい女性をきつく抱きしめたアベルが、私の視界に入った。

 あのマネキンにどことなく似ている……んじゃない!あのマネキンがこの女性を模していたんだって、嫌でもわかる。



 アベルは、この人が好き、なんだ。
アベル
アベル
彼女はアンナ、僕の最初のお嫁さんだ。……心優しく愛らしい女性で、僕のことをいつも支えてくれた
アベル
アベル
それなのに!あんな男に関わったばかりに……!
 やるかたない悲しみと怒りを涙として零し、アベルが語る。

 使用人二人が射殺さんばかりの視線を私にぶつけ続けている。

 怖いけど、私はアベルのお嫁さんだ。自信を持って立ち上がらないと、お嫁さんとして自分を許せない。

 両手両足に力を込める。
アベル
アベル
な、何を……
 私はゆっくりと歩み寄って、アンナさんごとアベルを抱きしめた。

 アベルと私は境遇も人生も違う。けど怒りも悲しみも、私はよく知ってる。
佳音
佳音
私はっ!アベルのお嫁さんだから……
アベル
アベル
指輪はセツとセトに砕かせた。書類上の婚姻も結んでいない
アベル
アベル
無効だ。だから……
 アベルの表情が悲しみに染まっていく。
アベル
アベル
帰れ。さもなくば防腐加工した君をこの部屋に並べることになる!
アベル
アベル
アンナに捧げる友人として
 蝋燭の火がボッと大きく音を立てて燃える。

 部屋の壁を背に座らせられた綺麗な女性達の姿が闇に浮き上がる。

 ……彼女たちと同じになるとしても。
佳音
佳音
私に優しくしてくれて、幸せな気持ちをくれたのはアベルだもん!
佳音
佳音
あんな世界いらない!アンナさんの友だちになる方が絶対いい!!
佳音
佳音
親の喧嘩も!クラスメイトの嘲笑も!知らない人からの罵倒も!いらない!
佳音
佳音
アベルがいい!!優しいアベルのそばがいい!!
 私は子供みたいにわんわん泣いて、アベルとアンナさんをきつく抱きしめる。
アベル
アベル
……僕は君を不幸にする
アベル
アベル
寄る辺はいつか、見つかるだろう
アベル
アベル
生きていれば
 背後から両手で首を絞められて、私の意識は闇に落ちた。



 × × ×



 闇の先も闇だった。所々に灰色が浮いている。

 それが夜空だと気がついたのは、私の身体を支えるアベルの体温に気がついた瞬間だった。
アベル
アベル
本来、君が訪れようとした場所はここだろう
 校舎屋上。冬の夜風は染みるけど、いつの間にかサイズの大きいPコートを着せられていた。

 アベルはしがみつく私の身体をゆっくりと降ろした。

 殺すことをほのめかして、あれだけ突き放していたのに、こんなにも私を丁寧に扱ってくれる。

 なら、なんで一緒にいてくれないの?私の気持ちを尊重してくれないの?
アベル
アベル
さよなら、佳音
 アベルは私の手を払い背を向けて、空へ飛び立つ。
佳音
佳音
待って!私を……
ダヴィド
ダヴィド
このダヴィドの嫁にするってのはどうだ?
 目の前で黒い炎が燃え立ち、男性が現れる。私の頬に火の粉がかかる。炎のはずなのに異様に冷たい。

 私の耳に吐息がかかり、首を筋肉質な腕で捕まえられる。全身が粟立つ。

 ダヴィドと名乗った男性は野性を感じさせる掘りの深い面立ちで、燃えるような赤い髪があちこちに跳ねている。

 逃げたいけれど、彼の腕に阻まれて一歩も動けない。
佳音
佳音
アベル!!
 空間を切り裂いて自分の館に踏み込んだアベルが私を見下ろし、忌々しげに睨み付けた。

 私の身体が見えない壁をすり抜ける感覚に襲われる。
ダヴィド
ダヴィド
あいつを捨ててヨロシクやろうや、佳音ちゃん
 その言葉とともに、私とダヴィドさんは校舎の屋上から消えた。

 こんなお別れは嫌なのに!アベル!