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第4話

好奇心が殺すもの
 私はセツさん、セトさんに連れられて、屋敷の中を見て回った。

 浴場、衣装部屋、お手洗い、私の部屋、執務室、……アベル様の部屋。

 内装から調度品まで洗練されているのは当然だけど、それ以上に隅々まで手入れが行き届いている。

 本当に、こんなに素敵な場所で暮らしていいのかな?



 × × ×



セツ
セツ
奥様、ここに近づくのは今回だけにしてくださいね
セト
セト
何が起こっても俺らは責任負いませんからねー
 最後に案内されたのは、鉄の扉。何重にも鍵がかかって、鎖の装飾に薔薇が巻き付いている。

 一目見ただけでわくわくしてしまう。この扉の向こうにはどんな不思議が待ち受けているんだろう?

 ……けれど。
セツ
セツ
奥様、こんな言葉をご存じですか
セト
セト
好奇心は……なんだっけ、奥様?
 扉を塞ぐように並んで立つセツさんとセトさんが、目を閉じたまま私を振り返る。

 絶対に見せない瞼の奥の瞳が、絶対零度の視線をぶつけてくる。
佳音
佳音
……を……します
セト
セト
もっと大きな声でお願いしますよー!
セツ
セツ
タコイカ弟、奥様を連れてさっさとここを離れましょう
 ここに近づいて殺されるのは猫でもセツさんでもセトさんでも、ましてやアベル様でもなく、私なんだろう。

 私はそれを感じ取れないほど鈍くもない。

 アベル様が案内するように言ったということは、それだけこの部屋が重要で危険、ということなんだと思う。

 もしかしたら、また別の世界に繋がっているのかもしれない。










 ……私はまだ、この世界にいたい!



 × × ×



 広すぎる私室に戻った私はフリルガウンに着替えてからローズウッドの机に向かって、大まかな施設の構造を書いていた。

 簡単にでもまとめておかないと、すぐに場所を忘れてしまいそうなほどにこのお屋敷は広大だ。

 セツさんとセトさん、毎日お掃除大変なんだろうな。二人とも怖いけど、そこはすごいなって思う。
アベル
アベル
感心だね、佳音
 私の肩が大きく跳ねる。

 ゆっくり振り返ると満面の笑みを浮かべたアベル様が、藍色のガウンを纏って立っていた。
佳音
佳音
あ、あ、あ、アベル様その、ののの、ノック……
???
???
したよ。すごい集中力だね。てっきりいないのかと思って
 その言葉で私は思い出した。私がいない方がいいっていう、私がいた世界の人たちを。

 アベル様のほうを向いているのがつらくなって、机の上に視線を戻す。全身が震える。
佳音
佳音
その、アベル様。アベル様は、私がいて……
 アベル様は私を後ろから抱きしめて、羽根ペンを握る私の右手に大きくて暖かな右手を重ねた。

 その隙間に、冷たくて固い感触がある。
アベル
アベル
手を開いてほしい
 その声の優しさに従って、私は震える手を開いた。羽根ペンが緩い弧を描いて倒れる。

 アベル様の手が離れて、私の手の甲には冷たくて固い感触の正体だけが残った。

 金の石座マウントに青く輝く宝石がはめられた指輪。
アベル
アベル
お姫様の手の甲を結婚指輪のリングピローにするのはよくないと思うけどね
 そう言って、アベル様は快活に笑った。遠慮のない、自由な笑み。
アベル
アベル
僕には正直な気持ちをぶつけてくれて構わない、この指輪に誓うよ
 私は指輪が乗った右手の甲を左手で抑えて、泣いてしまった。

 抑えきれない、涙が溢れて溢れて。嬉しくて嬉しくて、この気持ちをどう伝えていいか解らない!

 私はアベル様に居場所をもらった!私はここにいて良いんだ!
アベル
アベル
僕のお嫁さんは泣き虫だなぁ
 アベル様は右肩から乗り出して、私の涙を指で拭った。

 涙でにじむアベル様の笑顔は、初めて見る快活な笑顔。

 その笑顔に愛しさが湧く。
アベル
アベル
泣き疲れる前に、ベッドに入ろうか
アベル
アベル
大丈夫、きっといい夢を見られると思う!
 アベル様は私の頭を撫でてから、私を抱き上げ、ベッドに連れて行った。

 密着しながら恥ずかしいことを思い出す。そうだ、私、衣装部屋で、キス、されたよね?

 もしかして、もしかして。私、これからアベル様と……?だだだ、ダメ!そんなのー!