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第3話

ドレスが似合う……
 勿論私一人でのお風呂だった。

 そう、紳士な王子様が私と一緒にお風呂なんてありえない!

 私は王子様を待たせたくなくて、無我夢中で全身を洗った。



 × × ×



 清潔になった私は青髪の王子様―――アベル様にお姫様だっこされた。

 前方には緑髪の使用人さん―――兄のセツさんと弟のセトさんがいる。この二人は急に喧嘩を始めて怖いから、アベル様と二人きりの方が良いのに。
佳音
佳音
……私、重くないですか?
アベル
アベル
華奢すぎて心配なくらいだよ
 アベル様の首に回した腕の力が抜ける。恥ずかしくて溶けちゃいそう……。

 そんな私をしっかり抱えながら、アベル様は甘い声で私に語りかける。
アベル
アベル
佳音、好きな色は何色かな?
佳音
佳音
その、青が……
アベル
アベル
そうか、僕の髪の色と一緒だね、嬉しいよ!
 恥ずかしくて、アベル様から目をそらした。

 自分が着るならピンクだけど、アベル様の青髪が心に焼き付いて離れないのを見透かされたみたいで。
セツ
セツ
奥様、こちらの部屋になります
 大きな鏡が設えられ、様々な形のドレスが所狭しと置かれたとても広い部屋。

 天井がとても高くて、キラキラのシャンデリアが吊るされている。
セト
セト
アベル様、そろそろガキ……奥様おろしていいんじゃないですか?
セツ
セツ
セト、俺たちは夫婦の触れ合いに口を出すような立場じゃないでしょう
 アベル様は言い合う二人に仕事を言いつけ退場させてから、私の体をおろした。
佳音
佳音
あの、ドレスなんて、私には似合わないと思います……
アベル
アベル
自信をもって着れば絶対に似合うよ、僕のお姫様
 アベル様の言葉は、魔法の言葉だ。

 たったそれだけなのに自信を持とう、という気持ちがわいてくる……!



 × × ×



 部屋中のドレスを見て回っていたら、壁のように並ぶドレスの奥に空間があることに気が付いた。

 ドレスの下をくぐると、輝く黄色のドレスを纏った女性型のマネキンが見える。

 マネキンは美しく豊満な女性の姿をかたどっていて、こんな女性ならアベル様とお似合いだと思ってしまった。

 私もこうなれたらいいのに、と思いながら歩み寄る。
アベル
アベル
待て
 責めるような声が背後から響く。

 どうしてと問いたいけれど、凍てつくような雰囲気と静かな拒絶を感じて何も言えない。
アベル
アベル
……それだけは君に似合わない。君のためのドレスを探そう、お姫様?
 アベル様は後ろから私を抱きしめて、低くて甘い声でささやいた。心臓が高鳴る。

 わざわざ恐怖を追求する必要なんてない。この言葉に従った方が幸せになれる。

 私は覚えた違和感を封印して、自分のドレス選びに戻った。



 × × ×



 スモーキーピンクのふんわりしたドレスを着て、鏡の前に立つ。

 私は胸がぺたんこだから、ドレスを着ても貧相に見えるけど。それでも着飾った自分にわくわくする。
アベル
アベル
似合っているよ、佳音
 アベル様は私の前髪を優しい手つきでかき分けて、私の額に暖かくて柔らかい感触を落とした。

 その感触が離れてから、私は起こった全てを理解して急激に緊張する。ままま、待って……!
佳音
佳音
あ、あのあの、あ、アベル様?い、いま……?
アベル
アベル
アベルでいいし、敬語もいらないよ
 アベル様は当たり前、といった様子でちっとも照れない。
佳音
佳音
無、無理です!……その、ご、ごめんなさい!
アベル
アベル
……時間をかけていこうか
 私は、鏡の中の私に微笑むアベル様の優しさと暖かさだけを信じようと強く誓う。

 アベル様のお姫様になるんだから、と自分に強く言い聞かせた。



 × × ×



 セツさん、セトさんによるフルコースのディナーをおなかいっぱいいただいて、私は幸せな気分になった。

 こんなに美味しいご飯は生まれて初めてだ。
アベル
アベル
佳音、僕は仕事に戻るけど、セツ、セトにこの屋敷の施設を案内させるよ
アベル
アベル
本当は僕も同行したいけれど……
セツ
セツ
奥様、愚弟はともかく俺がいれば安全ですのでご安心ください
 アベル様の使用人であるセツさんとセトさんのことも信じよう。

 アベル様の背中を見送ってから、私は席を立った。