あっという間に時間は過ぎて、もう帰る時間。
「そろそろ帰ろうか」っておとんが釣り道具片づけだして、僕も手伝う。
楽しかったから、片づけるこの瞬間はちょっぴり寂しい。
でも、朝からめまいがしていた僕の体は、限界近かった。
目の前が何度も歪んで、頭がズキズキと痛む。
おまけに吐き気もする。
でも、おとんにはばれないように、必死に笑って車まで来たとき、
ぐらっと視界が揺れて、地面に倒れこんでしまった。
手から地面に倒れたせいで、手のひらがじんじんと痛い。
でもそれ以上に頭が痛い。
1日中、何も考えないで動いた結果。
ほんま、俺ってアホやな。
おとんが倒れた僕を抱えて車にのせてくれて、薬を飲ませてくれた。
僕の額の汗をぬぐいながらおとんにそう聞かれた。
小さく頷いた。
おとんに叱られて、涙がにじんだ。
どうしても行きたかってん
そんな言葉は涙で声にならなかった。
そう言いながら背中をさすってくれた。
おとんの言ってることが正しくて、
でも受け入れられなくて、
おとんに背を向けた。
おとんはちゃんと分かってくれてるって、
知ってるけど、
「おとんは何も分かってへん」
って言ってしまう。
ごめんなさい
なんて、
素直に言えなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!